2020年6月27日土曜日

ウェーバー:クラリネット協奏曲第1番ヘ短調作品73、第2番変ホ長調作品74(Cl: ザビーネ・マイヤー、ヘルベルト・ブロムシュテット指揮シュターツカペレ・ドレスデン)

管楽器のための協奏曲というのは、楽器の特徴から大規模な音楽が好まれるようになるロマン派以降にはあまり作曲されなかった分野である。クラリネット協奏曲の場合、あのモーツァルトのものが断トツで有名で、その他の作曲家の作品はほとんど知られていない。有名作曲家としてはコープランドくらいだろうか、思いつくところでは。確かに最晩年のモーツァルトの諦観に満ちた天国的に美しい作品を聞けば、これを超える作品などあり得ない、とさえ思わせるのは確かである。

そんな中にあって、ウェーバーが書いた2曲のクラリネット協奏曲は、比較的有名でよく演奏される。これらの作品はウェーバーの作品の中ではおそらく有名な方であるとともに、クラリネット奏者の多くが演奏し録音に残している。

ベルリン・フィルへの入団を巡ってカラヤンと楽団員との確執が伝えられ、そのことが長く続く両者の対立を招いた80年代の出来事は記憶に新しが、この時に話題に上ったのが美貌のクラリネット奏者サビーネ・マイヤーだった。当時のベルリン・フィルには、古くからの伝統に従い女性のプレイヤーはいなかった。従ってこの問題は、クラシック音楽における男女平等問題やその体質の閉鎖性といったものを炙り出した。結局彼女の採用は否決され、そのことが彼女のキャリアを一層華やかなものにしたのは皮肉である。

そんなマイヤーの奏でるウェーバーのクラリネット協奏曲は、ヘルベルト・ブロムシュテット指揮シュターツカペレ・ドレスデンとの一枚によって知る事ができる。1985年の録音。二つのクラリネット協奏曲のほかに、小協奏曲ハ短調作品26も収録されている。また私の持つ「Great Performance of the Century」シリーズによるリマスター盤では、クラリネット五重奏曲変ロ長調作品34(管弦楽版)も収録されている。

モーツァルトのクラリネット協奏曲から20年後にあたる1811年に作曲された第1番へ短調は、静かな序奏が激情に変わるドラマチックな出だしで始まる。ウェーバーがモーツァルトの作品を聞いていたかどうかはわからないが、少なくともウェーバーの作品はクラリネットの特性をより追求したもので、モーツァルトにはないものを持っている。クラリネットの魅力を、モーツァルト以上に引き出していると言える。

ロマンチックで憂いに満ちた音色と、農民のポルカを思わせるような、素朴で生き生きとした旋律が交錯するのがクラリネットの魅力であるとすれば、ウェーバーのクラリネット協奏曲はこれらの要素を十全に引き出すことに成功している。例えば第1番の第2楽章は、静かで深く物思いに沈むような哀愁に満ちた旋律と劇的な中間部が交錯し、第3楽章では一転、踊りたくなるようなリズムがクラリネットの特徴を際立たせている。第2楽章におけるホルンとの二重奏は、これらのややくすんだ楽器同士が絡み合う印象的な効果を出している。

 一方第2番ホ長調は、第1番よりもさらに充実した作品のように感じられて、私は好きである。第1楽章の堂々とした冒頭は、この作品が長調で作曲されていることを思い起こし、古典的造形を残しているのが好ましい。登場するクラリネットの音程の幅も一気に大きく、より技巧的な要素が感じられる。ロマンスと題されている第2楽章では弦楽器のピチカートが効果的で、ここでは一気にロマン派が開花している。さらに第3楽章では、垢ぬけた踊りのような独奏に乗って、楽しく歌う。そう、クラリネットは歌う楽器である。

小協奏曲はクラリネット協奏曲に先立って作曲され、2曲のクラリネット協奏曲を生むきっかけとなった。演奏時間は10分足らずだが3つのパートから成り、数々の変奏やカデンツァを持つ作品、一方、クラリネット五重奏曲はクラリネット協奏曲と同様、当時のヴィルトゥオーゾだったハインリヒ・ヨーゼフ・べールマンのために書かれたが、作曲されたのはより後年である。クラリネット五重奏曲といえば、やはりモーツァルトとブラームスの作品を思い出すが、ウェーバーの作品もまた、クラリネットの今一つの特徴を良く捉えており、幻想的な雰囲気のなかで音楽が進行する。

一言で言えばウェーバーのクラリネット協奏曲は、技巧的な作品であると思う。従ってマイヤーのような技巧的な奏者によってその魅力は最大限に引き出されていると思う。ブロムシュテットの指揮は、ベートーヴェンではやや物足りないが、このようなロマン派初期の作品にはピッタリである。地味で目立たない曲も堅実で実直に演奏すれば、そこに漂う着飾らない味わいが、骨格のあるドレスデンの伝統的な音色によって引き立てられている。

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