中部ヨーロッパの、さらに真ん中ほどに位置するチェコの秋が、どのような風情なのか、行ったことがないのでわからないのだが、おそらくは日本の秋と同様に紅葉が見事であり、空気は乾燥し、そして曇った日と晴れた日が交互に訪れる北半球中緯度の天候と思えばいいのではないだろうか。
ドヴォルジャークがその民族風の音楽を取り入れ、国民楽派としての名声を獲得していく前の、若き日の作品。その中にあってピアノ協奏曲はほとんど顧みられない曲である。作品番号が33と言えば、交響曲で言えば第5番の頃。作曲家として駆け出しの頃である。35歳。後年アメリカへ渡り、名声を獲得していくずっと前である。だがその作風には、もうどうしようもなくドヴォルジャークの血が流れている。40分にも及ぶ長い曲の第1楽章は、同時代の作曲家、例えばチャイコフスキーやグリークのように、いきなりピアノが弾きだしたりはせず、長い序奏が付けられている。古典的な雰囲気も漂わせながら、やがてピアノがテーマを弾きだすと、そのテーマがいろいろに使われ、オーケストラと掛け合いながら、結構長い時間をかけて第1楽章が終わる。ただこの楽章を聞くだけでは、何となく単純な曲に聞こえる。
それゆえに、なかなかちゃんと聞いたことのない曲だったが、Spotifyの時代が到来し、珍しい録音を含めて数多くの演奏に触れることができるようになった。こうなったら自分の気に入る演奏に出会うまで、聞き続けることができる。そしてとうとう出会たのが、ここで紹介するルステム・ハイルディノフによる演奏だった。伴奏はジャナンドレア・ノセダ指揮BBCフィルハーモニック。2004年の録音、レーベルは英シャンドス。目立たない演奏だが、なかなかこれは大変充実した名演奏であると直感した。
ハイルディノフはロシア生まれのピアニストだが、若い頃にイギリスに留学し、その後王立音楽院の教授になったピアノの教師とのことである。ラフマニノフのCDが出ているようだし、NHK交響楽団とも共演しているらしい。けれどもほとんど知られていないピアニストが、これまたあまり知られていないドヴォルジャークのピアノ協奏曲を演奏している。
第3楽章のフィナーレは、快活で民族的な曲調の音楽である。ドヴォルジャークはこの曲しかピアノ協奏曲を残していないが、もしかするとピアノで活かせるフレーズが、ドヴォルジャークに合っていなかったのではないかと思わせる。メロディーが平凡で、しかも技巧的でもない。
この演奏を聞いていると、二流の音楽が一流の演奏によって見事に蘇っている様を目の当たりにする。
0 件のコメント:
コメントを投稿