クラシック音楽をもう30年以上も聞いてきたが、それでもこういう経験をするものだと思った。何度かきいているうちに、それまでは大したことないと思っていた曲が急に何か素敵に思える瞬間があるのである。最近ではメンデルスゾーンの弦楽四重奏曲がそうだった。
「今さら何言っているの?」という向きも多いだろう。だが私にとっては実は、ごく最近まで特に見向きもしなかった作品である。それが急に素敵に思えてきた。メンデルスゾーンの作品を順に聞いてきて、そろそろクァルテットでも思っていたところ、なかなか良いCDが手に入らない。もともとそれほど有名な曲ではないし、CDは全部で3枚もの長さになるのだから結構な出費である。それではと最も安かった最近のCDを手に入れた。それがヘンシェル四重奏団によるArteNova盤だった。
この演奏を最初に聞いた時はちっとも良いとは思わなかった。もっとラディカルな演奏の方が良かったかな、などと考えていた。だがそれでもあきらめずに聞いていたところ、3回目か4回目にしてやっと流れに乗るような聞き方ができるようになった。ヘナヘナとした演奏だと思っていたが、それなりにきりっとして、歌うところは歌うなかなかいい演奏だと思えてきた。ではどのような曲か、これから作曲順に見ていく。今回は14歳から20歳頃に作曲された初期の3作品について。
①弦楽四重奏曲変ホ長調(1823年)
②弦楽四重奏曲第2番イ短調作品13(1827年)
③弦楽四重奏曲第1番変ホ長調作品12(1829年)
これらの3曲はいずれも20代の作品で、晩年の作品と比べやはり違うと言わざるを得ない。これらの3作品には、いずれも共通した特徴がある。
まず全体に非常にのびやかである。若い、ということもあるだろう。全体にみずみずしく屈託がない。これらの作品が、その年齢を思わせない完成度を誇っているのは他の作品でも言えることで、この天才作曲家のまばゆいばかりの感性にはいつも驚く、と同時に好感が持てる。作曲年代では3つのうち最後となる第1番がもっとも印象に残った。民謡風(ユダヤ風?)の第2楽章を始め、音楽は親しみやすい(この楽章は「カンツォネッタ」と呼ばれ単独でしばしば演奏される)。
番号のない変ホ長調もなかなかの曲である。モーツァルトのような愛らしさは、第3楽章のメヌエットを頂点に全体にいきわたる。第2番はこの中では一番特徴的だが、それは単調であるからかもしれない。とりわけ第3楽章は印象的で、A-B-A-Bの緩急の差が見事である。
私はこれらの作品をiPodで聞きながら、カフェの涼しい席でしばし読書をするのが楽しくなっている。集に1回くらいの割合で、私は1時間余りをそこで過ごす。少し大きめのボリュームで聞く弦楽四重奏曲とホットコーヒーの組み合わせは、残暑の厳しい夏の日に相応しく、なかなか心地よい。
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