このヴァイオリン協奏曲第4番もまた、数奇な運命をたどって演奏された作品である。その経緯は以下の通り。
「パガニーニの死後、楽譜は息子アキリーノのもとに保管されたが、やがて処分されてしまった。1936年にも同じことが繰り返されたが、その時、パルマのくず屋が買い取った紙束の中から、アキリーノの署名がある本作のオーケストラ譜が発見され、そのオーケストラ譜を買い取ったイタリアの蒐集家ナターレ・ガルリーニがその後、北イタリアのコントラバス奏者ジョヴァンニ・ボッテジーニ(1821年-1889年)の遺品の中にヴァイオリンの独奏パート譜を発見した。
その後、1954年11月7日に、アルテュール・グリュミオーの独奏ヴァイオリン、ラムルー管弦楽団、フランコ・ガルリーニ指揮(ナターレの息子)によって、パガニーニの死後、初めて演奏された。」(Wikipediaより)
この作品を何とギドン・クレーメルが演奏している。しかも伴奏はウィーン・フィルである。巨匠ムーティが指揮をしている!このCDを見つけた時、即刻買うことを決意した。録音は1995年。
第4番の協奏曲もまた、いつものパガニーニ節が全編にわたって繰り広げられる。冒頭の序奏はそれまでの曲に比べてむしろロマンチックだと言えようか。聞き進むうちにこの曲が、ウィーン・フィルによる演奏であることに何かとても新鮮なものを感じる。ヴァイオリンだけが突出している演奏が多く、伴奏はまあ付け足し。極端に下手なのも困るが、そこそこの安定した伴奏なら聞けるし、それにそんなに難しくはない。だから無難に・・・という演奏が多い中で、ここでのムーティは真面目である。ウィーン・フィルは独特の音色が魅力だが、その艶というか微妙な厚さ(完璧に揃わないからか)が独奏の、やや神経質で線の細いクレーメルと奇妙なマッチングを示している。
その状況が象徴的に表れるのが、第1楽章のカデンツァではないだろうか。ここでクレーメルはまるで現代音楽を思わせる技巧的な独奏で、もしパガニーニが現代に生きていたらこういう曲を書いたのではないか、とクレーメルが考えたかどうかはわからないが、とにかくここはクレーメルならではの、ややスラブっぽい音楽が魅力的である。
第3楽章の第2部での、いつものパガニーニ節もまた素晴らしい。クレーメルは少し余裕のあるような力でここを含む全体を弾きこなす。演奏が決して安易なものにはならず緊張感を保っているものの、客観的にパガニーニという作曲家を弾きこなしている。ムーティはそのような真摯なソリストに対し、誠意をもって伴奏を務めているように感じられる。
クレーメルとパガニーニという取り合わせは、しかしながら意外なものではない。なぜならクレーメルはアッカルドなどと同じパガニーニ国際ヴァイオリン。コンクールの覇者であるからだ。意外なことにクレーメルのパガニーニ演奏は、それほど珍しいわけではない。だがクレーメルはパガニーニの圧倒的な技巧に敬意を払いつつも、ヴァイオリンの持つ表現の可能性をさらに押し進めている。だからここで聞くクレーメルのパガニーニは、独特の魅力を持っているように思われる。
なお本CDには珍しい「ソナタ・ヴァルサヴィア(ワルシャワ・ソナタ)」が並録されている。旋律の綺麗な曲だが、次第に独奏の技巧が目立つようになり、第3楽章の「ポーランドのテーマ」に至っては、管楽器との掛け合いや小鳥が飛び立つように消え入る部分など、唖然とするものがある。もちろんクレーメルは、そんな部分を超絶技巧と緊張を両立させながら、余裕を持って弾ききっている。
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