2015年7月14日火曜日

ブラームス:弦楽六重奏曲第2番ト長調作品36(Vn:イザベル・ファウスト、他)

そもそもブラームスがさほど好きではない私にとって、この弦楽六重奏曲との出会いは新鮮だった。めずらしい編成(ヴィオラとチェロがそれぞれ2本)もさることながら、若々しく新鮮でそれまでの私のブラームス像を嬉しく壊してくれたからだ。4つの交響曲やいくつかの協奏曲くらいしか知らない私にとって、この曲の魅力は何と言ってもその躍動的な瑞々しさだろうと思う。最初の交響曲第1番がもう40代にもなっていたブラームスの管弦楽作品しか知らないというのは、この作曲家の一つの側面を理解しているにすぎないように思う。

ブラームスは弦楽六重奏曲を2曲作曲しているが、私が今回聞いているのは第1番変ロ長調作品18を作曲した1860年の5年後で32歳の時に作曲された第2番ト長調作品36である。ブラームスは当時すでにウィーンにいて、歌手のアガーテ・フォン・シーボルトと恋愛関係にあったようだ。だが私はそういういきさつをあまり考えながら聞きたい方ではないので、こういう話は他の人に任せておきたいと思う。このようなパーソナルな状況分析は、ロマン派以降目立つようになるのが音楽史ではあるが。

古典派まではむしろ音楽の形式上の革新性やその意味について触れることに力がそそがれるのだが、その場合には音楽的知識が必須となり私の場合とうてい力の及ばない領域となる。結局、素人の書く音楽の文章は、やおら観念的、主観的にならざるを得ない。これがポピュラー音楽ならそれだけでいいという考えがあるが、クラシックの場合そうはいかない。もっとも個人的な文章だから別に構わないではないか、という至極真っ当なな意見に逆らう気はない。けれどもブログという性質上、誰が読むかもわからないわけで、ある程度の客観性が必要と(勝手に)思っている。

オペラであれば物語の具体性のおかげで文章も比較的簡単に書けるし、標題音楽もまたしかりである。でなければ誰もが評論している有名な曲・・・ベートーヴェンのシンフォニーなどが比較的予備知識が豊富で書きやすい。あるいは感性だけで聞ける美しい曲・・・モーツァルトやショパンの類。ところがブラームスの室内楽曲となると、これはもう想像力を極限にまで試されるようなところがある。従って私はこの曲の感想文のようなものをうまく書く自信がまったくない。

仕方がないから、この曲を初めて聞いた時の文章を転記しておこうと思う。もっぱらこのブログは私の個人的な鑑賞ノートに過ぎないのから。

-------------------------------------
ダニエル・ハーディングの演奏を聞いた記念に、何か一枚CDでも買おうと思ってショップを覗いてみたら、最新の録音としてハルモニア・ムンディからブラームスのヴァイオリン協奏曲がリリースされていた。私はなんとなくせっかちで、少し小規模な感じのするハーディングの演奏をあまり好んでこなかったが、これはむしろ独奏を務めるドイツの女流ヴァイオリニスト、イザベル・ファウストを聞くべきCDである。だから、まあこれがいいかと思って買ってきた。

そのCDの余白(といっても結構長い時間だが)には、同じブラームスの弦楽六重奏曲第2番がカップリングされている。滅多に聞かない曲だし我がコレクションにもない。これは丁度いいと思って聞き始めた。ところが実にこれがいいのである。ブラームスの弦楽六重奏曲が、こんな明るい曲だとは知らなかった。晩秋に相応しいと勝手に思っていたブラームスも、演奏次第なのか曲のせいなのかはわからないが、とにかく美しくで、切れがあって、何とも素敵なのである。32歳の時の作品と知って、なるほどと思った。

言ってみれば夏のブラームスなのである。今日もiPodに入れたMP3を再生しながら、仕事を終えた夕暮れの公園のベンチに座って聞いていた。連日の猛暑も夕方となればピークを過ぎて、強い風がビルの谷間を駆け抜けてゆく。時折イヤホンの隙間から、子どもたちの歓声がこだまする。

夏至の日が傾くと、ひとり、またひとりと公園を去って行った。私は音量を大きめに設定して家路を急ぐ。憂愁を帯びた厚ぼったいブラームスも悪くはないが、ここは流行りのスキッとした演奏で聞きたいものだ。ヴァイオリン協奏曲も、マーラー室内管弦楽団の力を借りて、ゆるぎない力をみなぎらせながら、さっそうと奏でられるブラームスに、目立たないが大人の雰囲気を感じる。

それにしても弦楽六重奏曲は素敵だった。どの楽章も素晴らしく、飽きることがない。一気に40分近くがたってしまう。こんな曲なのだから、他にもいい演奏があるのではと検索してみたが、古いものがヒットするだけで、なかなか曲の真価を知らしめる新録音は少ないようだ。だからこのCD(SACDハイブリッドならもっといいのだが!)は、そういう意味でも掘り出し物ではないかと思った次第である。
----------------------------


【演奏】
Vn:イザベル・ファウスト、ユリア=マリア・クレッツ
Va:ステファン・フェーラント、ポーリーヌ・ザクセ
Vc:クリストフ・リヒター、シェニア・ヤンコヴィチ

0 件のコメント:

コメントを投稿

ブラームス:ヴァイオリンとチェロのための協奏曲イ短調作品102(Vn: ルノー・カピュソン、Vc: ゴーティエ・カピュソン、チョン・ミュンフン指揮マーラー・ユーゲント管弦楽団)

ブラームスには2つのピアノ協奏曲、1つのヴァイオリン協奏曲のほかに、もう一つ協奏曲がある。それが「ヴァイオリンとチェロのための協奏曲」という曲である。ところがこの曲は作品番号が102であることからもわかるように、これはブラームス晩年の作品であり(54歳)、すでに歴史に残る4つの交...