2019年9月9日月曜日

Fête à la Française(シャルル・デュトワ指揮モントリオール交響楽団)

何度か書いたように、かつて小遣いを貯め、1ヶ月につき1枚まで、などと決めてカタログにいくつかのの目印をつけ、週末になると朝から都会のショップへ出かける。何時間もそこで過ごしながら随分迷ったあげく、次第に聞きたいCD数点と値段を見比べて、目的のうちの1枚あるいは予算内でもう1枚を選別する。そういった、期待と興奮に満ちたひとりで過ごす美しい行為は、Spotifyのようなストリーミング配信の普及によって、完全に過去のものとなってしまった。今ではCDの再生すら困難な時代になりつつある。CDを売る店はほぼ消滅し、CD再生機もほとんど売られていない。一世を風靡したウォークマンやiPodのような再生機でさえ、そこにダウンロードして持ち歩くスタイルが古いものとなった今、変革を迫られている。
ストリーミング配信がもたらした夢のない生活は、私たちの音楽生活を変えようとしている。かつて一生懸命集めたディスクが、いとも簡単に無制限に再生できるというショッキングな出来事も、そのまま外出先でも聞けるというのは、見方を変えれば便利なことであり、かつて候補に挙げながら購入を見送った数多くの演奏に、簡単に触れることができることで、音楽や演奏に対する視野を何十倍にも広げてくれる。しかもその可能性は、比較的低い定額料金で手に入れることができる。

Spotifyで聞くデュトワの指揮する「Fête à la Française(魔法使いの弟子/デュトワ・フレンチ・コンサート)」はまた私にとって、かつて親しんだディスクの思い出をよみがえらせてくれるものだった。今ではどこかに行ってしまったこのCDを、もう聞くことはないかも知れないと思っていたからだ。無くしたからといって再度数千円を投じる気持ちにはないが、機会があればもう一回くらいは聞いてみたいと思っていたのだ。

そのディスクには、フランス音楽の小品が集められている。フランス音楽と言うと、私自身とっつきにくい印象があったことに加え、ここのディスクに収録されている曲には、ほとんど馴染みがなかった。それにもかかわらず、私はいつかこのディスクを上記のように迷った挙句手に入れた。購入した以上、それを好きになるまで聞かないわかにはいかない。投資が無駄になるのは、何としても避けたいと思うのが、この時代のディスク収集家の宿命である。私はカセットテープにダビングして、自宅の車に持ち込み、カーステレオで聞くのが日課となった。このころはほぼ毎日、1時間程度を運転していたから、この演奏は耳にタコができるほど聞いたことになる。こういうことはSpotify時代にはできないことだろうと思う。

ある日、猛暑の中をドライブしていた。締め切った車内はクーラーが効いていて、多少の渋滞も気にならない。そんなときに、シャルル・デュトワ指揮モントリオール交響楽団によるフランス音楽小品集は気持ちの良い時間を約束してくれた。私はこのCDを聞くと、なぜか第二神明道路の下の国道を走行中の神戸市内を思い出す。車内では少しボリュームを落として聞くと、豪華で洒落たサウンドが涼しい車内を満たし、色彩感に彩られたシャープな響きが心に響いてくる。

シャブリエの「スペイン狂詩曲」は、そのような曲の中で、とりわけ私の記憶に残る曲だった。またサン=サーンスの「バッカナール」(歌劇「サムソンとダリラ」)は、このディスクの中では、デュカスの「魔法使いの弟子」と並んで最も有名な曲であり、オーケストラ音楽の醍醐味を聞く思いがする。細部にまで神経を行きわたらせながらも、さりげない手さばきで聞くものを引き込むデュトワの手法は、目立たないながらも絢爛豪華である。勿論、モントリオール交響楽団の技術的水準とデッカの優秀な録音を伴っていることによって、いつもながら完成度の高いものに仕上がっている。

このCDを買った時、そこに収められている曲は、すべて知らなかった。シャブリエの交響詩「スペイン」だってそうだ。こんな有名な曲を、と今なら思うのだが、実際のところこういった小品を聞く時間が、いったいどのくらいあるだろうか。このCDに集められているのは、そんな少し目立たない作品ばかり。歌劇「レーモン」序曲が今では最もお気に入り。サティの静かな2曲がアクセントとなっているが、それ以外の曲の肩ひじ張らない(ように聞こえる)演奏は、最後のイベールの「喜遊曲」まで飽きることはない。



【収録曲】
1. シャブリエ:楽しい行進曲
2. デュカス:交響詩「魔法使いの弟子」
3. シャブリエ:スペイン狂詩曲
4. サティ:2つのジムノペディ
5. サン=サーンス:歌劇「サムソンとデリラ」よりバッカナール
6. ビゼー:小組曲「子供の遊び」
7. トーマ:歌劇「レーモン」序曲
8. イベール:室内オーケストラのためのディヴェルティメント

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