2020年10月20日火曜日

サルスエラ名曲集(イーゴリ・マルケヴィチ指揮スペイン放送交響楽団)

ロシア生まれの巨匠、イーゴリ・マルケヴィチは、1960年代にスペイン、マドリッドにある国立放送局(RTVE)のオーケストラを指揮していたことは、あまり知られていない。この頃スペインは独裁政権の時代である。そして、そのような中で、スペインの民族舞台劇であるサルスエラの名曲集をフィリップスに録音している。このような珍しいCDは、掘り出し物の類であろう。私は池袋のHMVに毎週のように出かけては、数枚のCDを買うという生活を繰り返していた時期があるが、ある日このCDが目に留まり、サルスエラとは何かもしらないままレジへ向かったのを覚えている。

サルスエラとは、スペイン語によるオペレッタのような音楽劇で、様々な歌や踊りが入れ替わり立ち代わり登場する賑やかなもの。そのごちゃまぜな様子は魚介スープ「サルスエラ」にも転用されている。あの名歌手プラシド・ドミンゴは、両親がサルスエラの歌手だったこともあり、サルスエラに対する思いはことのほか強いようだ。「サルスエラのロマンス」という歌曲集もリリースしている。また「三角帽子」や「恋は魔術師」で有名なファリャも、若い頃はサルスエラの作曲をしていたようだ。

そのサルスエラの名曲集を、マルケヴィチが演奏しているというのが面白い。マルケヴィチと言えば、我がNHK交響楽団を指揮していた頃の晩年の姿が目に浮かぶ。「展覧会の絵」や「悲愴」などの映像を見ると、ロシアの大地を思わせるような動じない指揮ぶりは、丸で剛速球を投げ込む投手のような感じで、CDで聞く「春の祭典」のハイ・テンションな「爆演」はあたかも戦車が行くがごとくであった。

このCDに収録されているのは、19世紀後半から20世紀初頭にかけて活躍した作曲家の、12種類のサルスエラである。情熱的な指揮、そして音楽は、冒頭からトランペットが鳴り響くことで始まる。カスタネットやトライアングルなどの打楽器も混じり、全編これスペインの音楽を満喫させてくれる。終始ブンチャ・ブンチャのリズムが続く。アリアや合唱が入る曲もあるが、どちらかというと管弦楽が主体の場面が多い。例えば、有名なペネーリャの「山猫」からは、舞踊音楽「パソドブレ」が取り上げられている。

闘牛とフラメンコ。このいずれにも実際には接したことはないのだが、その光景が目に浮かぶようである。マドリッドを始めとするスペイン各地の大変有名な曲ばかりを集めているようだが、詳細はよくわからない。そこでいろいろ検索していると、東京に日本サルスエラ協会(Asociación de la Zarzuela de Japón)というのがあることがわかった。何と東京で、日本人により、有名なサルスエラの舞台を制作、上演しているようなのである。だから私かここに下手くそな解説を書くよりも、専門家に任せようと思う。サルスエラの魅力について、ホームページに詳しく書かれている(https://www.zarzuelajp.com/)。

この珍しいCDは、サルスエラとはどういう音楽か、ということを知る手掛かりとなることに加え、それをロシアの巨匠が大変生々しく指揮しているという風変わりな魅力に溢れた一枚である。1967年の録音。


【収録曲】(ジャケット裏面を参照)
1. ビーベス: サルスエラ「ドニャ・フランシスキータ」より
2. ヒメネス: サルスエラ「早咲きの娘」より
3. ヒメネス: サルスエラ「ルイス・アロンソの踊りの宴」より
4. ブレトン: サルスエラ「ラ・パロマの夜祭」より「セギディージャ」ほか
5. ルーナ: サルスエラ「ユダヤの子」より「インドの踊り」ほか
6. ペネーリャ: サルスエラ「山猫」より「パソドブレ」
7. アロンソ: サルスエラ「ラ・カレセーラ」より
8. チャピ: サルスエラ「榴弾隊の鼓手」より
9. チャピ: サルスエラ「人さわがせな女」より
10. チュエカ: サルスエラ「水、カルメラ、焼酎」より
11. バルビエリ: サルスエラ「ラバピエスの理髪師」より
12. カバリェーロ: サルスエラ「巨人と大頭」より

0 件のコメント:

コメントを投稿

ブラームス:ピアノ協奏曲第1番ニ短調作品14(P: アルフレート・ブレンデル、クラウディオ・アバド指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団)

例年になく高温の日が続く今年。それでもさすがに11月ともなるとようやく秋が深まって来て、今日は朝から雨が降り続いている。すっかり日も短くなり、夕方になると肌寒く感じる。私がブラームスを聞きたくなるのは、そういう季節である。だがこのブログでは、これまであまりブラームスの作品を取り上...