一般にジャズとは、米国南部を源流に持つアフリカ系アメリカ人(黒人)の音楽として発展した。その軽妙さと即興性、独特のリズムを持つ音楽をソビエトに紹介した人物がいたのだろう。しかし、そのままの形でソビエトに持ち込まれたわけではなくロシア流にアレンジされ、原型から大きく変化したものだと言ってよい。
シャイーの指揮で聴くショスタコーヴィチのジャズ作品集は、とてもリラックスして軽妙だが、どこか洗練されておりモダンである。もっとも作曲されたのはいまから100年ほど前でもあるので、古きレトロな香りが充満している。いってみれば、サロン音楽、あるいはダンス音楽といったムードである。
ここで話は少し脱線するが、米国で活躍し、時にジャズの要素を取り入れた作曲家にロシア系アメリカ人が多いことは興味深い。ジョージ・ガーシュイン、アーロン・コープランド、それにレナード・バーンスタインといった誰もが知るアメリカ人作曲家は、みなロシア系、しかもユダヤ人の血を引いている。そのユダヤの音楽をショスタコーヴィチもしばしば引用し、交響曲をはじめとする作品に取り入れているのは、さらに興味深いと言える。
さて、ソビエトにおけるジャズは、本家アメリカのものとは異なり、体制的なバックアップもあって流行した側面がある。ショスタコーヴィチは数々の映画やアニメーションの音楽を作曲しているが、これらの作品もいわば彼の本業を少し離れたユーモラスで打ち解けた作品である。その面白さは一度聴くとよくわかる。シャイーの軽やかで明るいリズムが、その傾向に拍車をかけている。
ジャズ組曲第1番(1934)は8分程度の曲ながら印象的である。ワルツ、ポルカ、フォックスロットの3つの部分からなる。一方、第2番(1938)は、1999年に発見され2000年になるまで初演されなかった作品とは異なり、ここでは「舞台管弦楽のための組曲第1番」が収録されている。約25分の曲で、これがかねてより「ジャズ組曲第2番」とされていた。シャイーの演奏は1991年のものだから、「ジャズ組曲第2番」と表記されている。
8つの部分から成り、さまざまな他の作品からの転用も多くなされているようだ。まあそんなことはともかく、ムード音楽のような気軽さでソビエトのジャズに耳を傾けてみたい。1922年に誕生したソビエト社会主義共和国連邦(ソ連)は、ゴルバチョフによる改革に失敗し、1990年代初頭に崩壊してしまった。ショスタコーヴィチの人生(1906–1975)は、そのほとんどをソ連時代に過ごさざるを得なかった稀有な芸術家である。彼が残した数多くの交響曲については、また別の機会にゆっくり聴いてみたい。とかく難解なショスタコーヴィチの音楽にも、こんな気さくに聴けるものだってあるのだということが、私などはとても人間的で嬉しいことのように思えてくる。
なお、本CDにはピアノ協奏曲第1番、および「タヒチ・トロット」としても知られる「二人でお茶を」が添えられていて、サービス満点である。

0 件のコメント:
コメントを投稿