2020年8月12日水曜日

モーツァルト:セレナード第7番ニ長調「ハフナー」K250(フランス・ブリュッヘン指揮18世紀オーケストラ)

モーツァルトには「ハフナー」の名の付く管弦楽曲が2つある。そのうちの1つが1776年に作曲されたニ長調のセレナードK250である。もう一つの交響曲第35番ニ長調K385は1782年の作品で、この頃にはモーツァルトは、すでにウィーンに出てきていた。後期六大交響曲の最初の作品でもあるK385とは異なり、「ハフナー」セレナードはザルツブルク時代の若きモーツァルトの作品である。「ハフナー」とはモーツァルトが親しくしていた一家の名で、ザルツブルクの市長も務めた富豪だった。ハフナー家に依頼されて、モーツァルトはこれらの曲を作曲した。

「ハフナー交響曲」は20分程度の短い曲だが、「ハフナー・セレナード」は1時間にも及ぶ長大な曲である(もっとも交響曲の方は、もともとセレナードだったものから抜粋されたのだが)。モーツァルトはこのセレナードを、ハフナー家の結婚式の前夜祭のために作曲した。そして、この楽団の入場のために別の曲を作曲した。それが行進曲ニ長調K249である。多くのCD録音では、この2つの曲がこの順番に演奏されていることが多い。ここで紹介するフランス・ブリュッヘンによる演奏もまた同じである。

長い演奏時間を要する「ハフナー・セレナード」を聞くと、丸で2つの交響曲作品を聞いたような気持になる。第1楽章はアレグロを中心としたソナタ形式、第2楽章はアンダンテ。ここでソロ・ヴァイオリンが活躍する(これは第4楽章まで続く)。第3楽章メヌエット、第4楽章はロンドとアレグロである。ここで作品が終わったかのように感じるが、この曲はまだまだ続く。第5楽章は再びメヌエット、第6楽章がアンダンテ、第7楽章はみたびメヌエット、そして終楽章はアダージョで始まり、アレグロ調で終わる。

第8楽章まである曲が1時間もかかるのは、ひとつひとつ楽章が平均7分にも及ぶような長い曲だからである。なので、聞いていると徐々に退屈するかと思いきや、そこはモーツァルト、天才的な美しいメロディーの連続で心地よい。屈託のない若い頃の作品であるにもかかわらず、音楽的な充実度には驚くべきものがある。特にブリュッヘンの演奏で聞くと、若々しいエネルギーの迸りによって、ともすれば急ぎ過ぎる傾向がやや抑えられて、大人の響きになっている。

ハフナー・セレナードを聞きながら、猛暑の古都を歩きたくなった。 

今年の夏は、長く続いた梅雨が明けると一気に猛暑となった。湿度は相変わらず高いが、ある日の関東平野は快晴の青空だった。私が原体験として持っている夏の日。雲は沸き、光あふれる夏の一日を、私は古都鎌倉の散策に費やした。関東の他の地域とは違い、ここは中世の街である。さほど広くない土地に、寺や神社がひしめく。その狭い路地を人々が群れを成して歩いている。だがその道も少しそれると、静かで時間が止まったような路地が出現する。鎌倉の面白いところだ。出会ったお寺に詣でると、そこは長い年月を経た有名な古刹 だったりする。そう、できればガイドブックを持たずに歩くと面白い。目立たない標識と勘を頼りに、行ったり来たり。たとえ道に迷ったとしても、それはそれで発見がある。

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