第1部「チルチェンセス」は帝政ローマ時代。
まだキリスト教がローマ帝国中に普及する前のことで、当時は相当な迫害を受けていた。その象徴とも言うべきものが、見世物として庶民の興奮を巻き起こす異教徒と猛獣との決闘で、今も各地に残る円形劇場は、その催しの会場だった。もう昔のことなので、これは史実として知る以外にないのだが、それにしても残酷な話である。そしてローマの歴史上これは避けて通れないことでもある。レスピーギはそのシーンを音楽にした。
第2部「五十年祭」は中世ロマネスクの時代。
時が経ってローマ帝国は分裂し、長い中世の時代に入る。キリスト教はもはやヨーロッパ中を席巻し、各地に教会が建てられ、巡礼の道も整備された。「すべての道はローマに通ず」と呼ばれたこの都は、その巡礼の終着点の一つであった。音楽は厳かで讃美歌の旋律や鐘の音も混じえながら「永遠の都」を讃える。
第3部「十月祭」はルネサンス時代。
小刻みの速いリズムに乗って、弦楽器が高音の旋律を奏でると、やはりここはイタリアという感じがしてくる。明るく楽天的である。そして中間部にはマンドリンが登場。幽玄で穏やかな日暮れは、古風なムードを醸しながら、静かに過ぎてゆく。
第4部「主顕祭」は現代。
いよいよ最終部に入った。賑やかで大はしゃぎの音楽。それぞれの旋律が何をモチーフをしているかは、いろいろあるのだろうけど、すべてがごちゃまぜになっていく。千変万化するリズムに多種多様な楽器が入り乱れ、時に威勢よく、狂喜乱舞の乱痴気騒ぎ。
私の知る限り、マゼールは「ローマの祭り」を2度録音しているが、私が聞いたのは旧盤のクリーヴランド管弦楽団とのものである。この録音はデッカによって1976年にリリースされているが、現在では「Decca Legendsシリーズ」でリマスターされているものが手に入るだろう。あまりに通俗的だからかカラヤンやライナーが「ローマの祭り」を省略していたのに対し、ここでは「ローマの噴水」が省略され、代わりにレスピーギの師匠だったリムスキー=コルサコフの作品が収録されているのがユニークだ。
マゼールに「ローマの祭り」のような作品を振らせたら、その交通整理の巧みさと醒めた盛り上がりによって大変聞きごたえがある演奏に仕上がるのは明らかだ。音の魔術師とも言えるマゼールのアーティスティック・センスは、デッカの「超」優秀録音に支えられて、見通しが良く、細部までクリヤーだ。
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