アナウンスによれば、これはラヴェルの管弦楽曲「道化師の朝の歌」、演奏はアンドレ・クリュイタンス指揮パリ音楽院管弦楽団とのことだった。私はこの組み合わせの演奏をもっと聞いてみたいと思い、小遣いをはたいて買ったLPレコードが、クリュイタンスによるラヴェルの「管弦楽曲集」だった。このLPは、ワルター指揮によるモーツァルトのLPに次ぐ、私の2枚目の所有ディスクとなった。
この1枚のLPレコードには、「ボレロ」や「ラ・ヴァルス」、それに「スペイン狂詩曲」などが収録されていたが、残念ながら「道化師の朝の歌」は含まれていなかった。だが私は、それらの曲に「道化師」と同様の興奮を覚えた。今から思えば、これが私のフランス音楽の原体験だった。
あれから数年がたち、CDの時代になって数多くの録音がリマスター発売されるに際し、毎日のように通った池袋のHMVで2枚組のクリュイタンスによるラベル名曲集に出会った。ここにはもちろん「道化師」も収録されていた。しかしどういうわけか、私はこのCDを買っていない。「道化師の朝の歌」はラヴェルがまだ若いころに作曲した作品で、これ以降のより充実した作品の方が聞きごたえがある、と思っていたからだろうか。すでにラヴェルのCDとしては、当時発売されて最高の評価だったシャルル・デュトワのものを買っていたからかもしれない。
「道化師の朝の歌」はもともとピアノ曲で、30分もある組曲「鏡」の中の4曲目の作品である。この曲と第3曲「海原の小舟」のみがラヴェル自身によって管弦楽曲にアレンジされている。クリュイタンスのCDには、その2曲が収録されている。
アンドレ・クリュイタンスはベルギー人の指揮者であったが、フランス音楽を得意とし、大阪国際フェスティバル協会の招きで60年代に来日している。私がまだ生まれる前のことだが、圧巻の演奏を繰り広げたようだ。この時の演奏は語り草となり、クリュイタンスの演奏は、わが国では大変評価が高い。最初で最後の来日ののち、わずか62歳で没していることもある。ベルリン・フィルとのベートーヴェンの交響曲全集は、カラヤンではなく何とクリュイタンスと行われている。しかし今となっては、忘れ去れたような指揮者となっている。
Spotifyの時代になって、過去の演奏を含め、手軽に音楽が聴ける時代になった。まだ中学生だった私が胸を躍らせて聞き入った時から40年の歳月が経過した。本日、暑い夏の日の朝に聞く「鏡」からの2曲には、スペイン情緒が溢れ、落ち着いた雰囲気に聞こえた。もっとどんちゃん騒ぎの曲に聞こえていたのは、やはり私がまだ若かったからだろうか。
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