2022年8月11日木曜日

ラヴェル:バレエ音楽「マ・メール・ロワ」(ピエール・ブーレーズ指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団)

「マ・メール・ロワ」とは「マザー・グース」のことで、マザー・グースとは英国に伝わる童話や童謡の総称である。ラヴェルはフランス人だったが、このマザー・グースからいくつかの題材を選び音楽にした。

「マ・メール・ロワ」は当初、ピアノ連弾用に作曲された。子供でも演奏しやすいよう配慮されているらしいが、結構凝っていて難しいのではないかと思われる。そしてラヴェルは、このピアノ用の作品をお得意の管弦楽曲に編曲している。ここでピアノの曲はそのまま管弦楽曲になっている。しかし本日私が聞いているのは、さらにいくつかの曲を加え、曲順を入れ替えたバレエ音楽版である。

前奏曲
第1場 紡車の踊りと情景
第2場 眠れる森の美女のパヴァーヌ
第3場 美女と野獣の対話
第4場 親指小僧
第5場 パゴダの女王レドロネット
終曲 妖精の園

前奏曲は朝日の射す森の中に入っていくイメージ。音楽はきわめて遅く、これは深い森である。遠くでホルンがこだましている。やがて盛り上がって第1場へ。どこか別の扉を開いたような世界が、そこには広がっている。フルートが鮮やか。この曲では、各楽器とその交わりによって醸し出されるさまざまな音から、イメージを膨らませながら聞くのが面白いだろう。バレエを見ていれば勿論、もう少し具体的なものが見えるのかも知れない。しかし音楽だけを聴いて、場面を想像する楽しみもまたある。ただ第4場の「親指小僧」を「一寸法師」と訳するのは、ちょっと無理があるかもしれない。

第4場のあとに演奏される間奏曲が、全体の転換点だと思う。ここでチェレスタやハープ、コールアングレなど、ちょっと特徴的な楽器が登場して、それまでのメロディーから変化してゆく。第5場 「パゴダの女王レドロネット」はスピードがあって面白く、フルートの旋律やリズムが東洋的な響きである。ここでのパゴダとは、中国の磁器製の首振り人形のことだそうだ。

終曲「妖精の園」では、再び森の中に回帰して、落ち着いて静かに美しい曲が続く。お伽の国のメルヘン。最後はクライマックスとなって幸福な音楽が壮大に終わる。

本来は愛らしい作品ではあるけれど、一流のオーケストレーションによって随分大人向けの作品に仕上がっているという印象を受ける。ここにはラヴェルにしか書けない浮遊感と、蠱惑的で夢想的な世界が大きく広がっている。しかもそれをブーレーズとベルリン・フィルが演奏しているのだ。これはもう大人の世界。連綿と続く和音の微妙な変化が、ぞっとするほど確信的で落ち着いている。透明な響きがやがてクライマックスを築くとき、魔法というよりは職人の技を見ているよなリアリティがある。ちょっと変わった演奏というべきか。

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