もとはピアノ曲である組曲「クープランの墓」もまた、作曲者自身によって管弦楽曲に編曲された。この曲は地味ながら、なかなか親しみやすいと思う。ピアノ版から2つの部分が省かれ、次の4つのパートから成り立っている。
第3曲 メヌエット
第4曲 リゴドン
クープランと言えば、フランス・バロックを代表する作曲家である。だから私は、この曲はクープランを偲んで作曲された、言わばオマージュともいうべき作品であると思っていた。親しみやすいメロディーも、そういう理由からだろうと考えた。ところが、この曲は第1次世界大戦で戦死した知人たちを追悼する作品だということを知った。かなり時が立ってからのことであった。
バスク地方で生まれたラヴェルは、父がスイス国籍、母はバスク人だったらしいが、パリ国立高等音楽院に学び活躍する。彼はことさら愛国心が強く、作曲を続ける傍ら従軍するのだが、体調を壊した上に母親が亡くなり、創作意欲も消え失せていく。「クープランの墓」を作曲したのはそのころである。各パートは、戦死した軍人らにそれぞれ捧げられている。
「プレリュード」が始まるとオーボエの速いメロディーに驚く。どこかチェンバロを思わせるような古風な優雅さも備えている。相当難しいのではと、素人の私などは思ってしまうのだが、これを何気なくさらっとやってしまうのが大変心憎い。2曲目の「フォルラーヌ」は北イタリア地方の舞曲で、揺れ動くリズムが特徴的。
第3部は「メヌエット」。ここでもオーボエが活躍する。どこか懐かしく古風な感じで、いつまでも聞いていたくなる。全体を覆っているのは、やはりフランスの雰囲気である。そして主題を弦楽器がしみじみと奏でるとき、やはりピアノだけの版よりも風情があるなあ、と思ってしまう(ピアノ版もそれはそれで悪くはないが)。終曲「リゴドン」は南フランス、プロヴァンスの舞曲。全体に色彩感に溢れテンポも良いが、中間部には特徴的なメロディーも挟まれて、大変味わい深い。
演奏はフランス風の香りがするものを選ぶことにした。いくつもあるのだろうが、ジャン・マルティノンが手兵パリ管弦楽団を演奏したものが秀逸と思う。ドイツやイギリスのオーケストラには真似のできないような、エレガントなアクセントやフレーズが指揮者とオーケストラの間に自然と漂っており、バランスの良いアナログ録音にうまく収められている。
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