その番組のテーマ音楽が、ブラームスの「大学祝典序曲」の一節だったことはよく知られてる。ラジオたんぱにはこのほかに、「私の書いたポエム」(モーツァルトのト短調交響曲)や「百万人の英語」(ハイドンの「時計」)といった番組もあって、クラシックの有名曲がテーマ音楽に使われていたのでよく覚えている。だがその「大学祝典序曲」が何と、われらが阪神タイガースの元主砲、掛布選手のヒッティング・テーマの原曲であることは、80年代以来の阪神ファンである私も知らなかった。
それほどにまで我が国では有名な同曲だが、この曲を演奏している指揮者はさほど多くない。というより、大指揮者でもこの曲だけは演奏していない人がなぜか多いのだ。カラヤンしかり、ジュリーニしかり、ベームしかり。いずれも「悲劇的序曲」や「ハイドンの主題による変奏曲」には名演奏を残しているにも関わらず、である。なぜだろうか?
想像するにブラームスは、あまに気乗りしないまま作曲したので、安直な、従って低俗な曲だとみなされているからではないだろうか?それはブラームス自身が言っている。彼はある大学から贈呈された博士号に対するお礼のため、学生歌をつなぎあわせるような形で作曲した。並行して作曲した「悲劇的序曲」とは対照的に、明るく楽天的な曲である。口ずさめるようなメロディーが次々と現れるので親しみやすい。おそらくブラームス嫌いの人でも、この曲は楽しめると思う。
私も音楽を聞き始めて、初めて親しんだブラームスの作品だった。わずか10分の曲で歌謡性に溢れているが、それでもブラームスらしい音運びは十分に感じられる。大学合格を目指す受験生には相応しく、最後にはシンバルやトライアングルも伴って華やかに盛り上がり、大変ハッピーな気分で終わる。初演の指揮は作曲者自身だった。
私の好みの演奏は、ブルーノ・ワルターがコロンビア交響楽団を指揮した一枚ということにしたい。この演奏は、ステレオ初期にハリウッドで録音された交響曲全集に含まれているもので、何度もリマスターされては再発売されているが、録音も大変ヴィヴィッドで晩年のワルターとは思えないほどの溌剌さが感じられる。演奏として大変立派だが、ドイツ風の重厚な響きを求める人にとっては、本物ではないと感じられるかも知れない。ワルターはウィーンの正統的な指揮者だから、敬意を表しないわけにはいかないので、大変ユニークな演奏と言えるだろう。しかし「大学祝典序曲」に関しては、このような議論は不毛である。
さてこの曲をテーマ曲としていた「大学受験ラジオ講座」はいつまで放送されていたのだろうか。いろいろ調べてみたところ、それは95年頃までのようだった。今から30年も前のことである。一方、1952年には番組が始まっているというから大変な長寿番組だったということになる。伊藤和夫、寺田文行、J・B・ハリスといった名講師陣の声が思い浮かぶ。
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