2017年4月22日土曜日

紀尾井ホール室内管弦楽団第106回定期演奏会(2017年4月21日、紀尾井ホール)

4月になると生活が新しくなり、何かとストレスの多い毎日である。不安定な天候がそれに追い打ちをかける。遅かった東京の春もようやくたけなわとなり、赤坂見附から四谷に向かう街路沿いの八重桜は満開である。ホテル・ニューオータニーの正面にある紀尾井ホールで、珍しいハイドンの作品「十字架上のイエス・キリストの最後の七つの言葉」(Hob.XX/1A)が演奏されるというので、一生に一度は生で聞いておきたいと思っていたこともあり、思い立って仕事の帰りに途中下車した。

紀尾井ホールは新日鐵住金文化財団によって設立されたホールで、すでに20年以上が経過しているが、私は一度しか訪れたことがなかった。今回初めて聞く紀尾井ホール室内管弦楽団(旧紀尾井シンフォニエッタ東京)はウィーン・フィルのコンサート・マスターを務めるライナー・ホーネックを首席指揮者に迎えての、最初の定期演奏会だそうである。プログラム前半はストラヴィンスキーの「ニ長の協奏曲」とJ.S.バッハの「2つのヴァイオリンのための協奏曲ニ短調(BWV1043)」である。おそらく私は、実演で初めて聞く。

会社の帰りに出かけるコンサートは眠くなることが多い。背広にネクタイという装いも、音楽会には相応しいがリラックスできるものではない。案の定私は、ストラヴィンスキーが始まると睡魔に襲われ、それはバッハの前半まで続いた。ただこのオーケストラは、どことなく精彩に欠け、二人のソリスト(のうちの一人は指揮者のホーネック氏で、もう一人はパリ管弦楽団の副コンサートマスター、千々岩英一である)も、音が前に出てこないように感じた。ホールの残響が大きいせいもあると思うが、これだけ小さなホールではもう少し音が映えていても良いと感じた。もしかすると三鷹市の「風のホール」同様、私の好みではないホールなのかも知れない。

普段なかなか聞くことがなくても、実演で真剣に聞くと楽しめる曲は数多い。「マタイ受難曲」、「メサイア」、「四季」(ハイドン)、ヴェルディの「レクイエム」、「ファウストの劫罰」など枚挙に暇はないが、一方で、どこがいいのかさっぱりわからず、ただ苦痛なだけの曲もある。私の場合、「ドン・キホーテ」(R.シュトラウス)、「火の鳥」(ストラヴィンスキー)が苦手であり、「戦争レクイエム」(ブリテン)、「トゥーランガリア交響曲」(メシアン)を聞いた時も、なかなか辛かった。これはもしかしたら演奏が悪かったのかも知れないが。

さてハイドンの「十字架上のイエス・キリストの最後の七つの言葉」である。リッカルド・ムーティによる録音を聞こうと思って何度も挫折してきた私は、いっそ実演ならその良さがわかるかも知れないと考えた。ハイドン自身「初めて音楽を聴く人にも深い感動を与えずにはおかない」と語っており、その音楽はオラトリオへ、また弦楽四重奏曲へと編曲されている。

全7楽章、すべてが緩徐楽章である。これは忍耐の要ることだが、それは聞き手だけでなく演奏家にとっても同様だろうと思う。そして今回の演奏、おそらくは何度も慎重に練習を重ねたであろう、まったく乱れたりたるんだりすることはなく、最後まで、小1時間に亘って終始、丁寧な音楽が演奏された。このことは特筆してよい。けれども聞き手にとって、それはやはり辛かった。ハイドンの交響曲はずべて聞いたことがある私でも、これは正直に告白しておこうと思う。終曲「地震」を除けば、序奏と7つのソナタはすべて、アダージョやラルゴである。時に印象的だったのは、ピチカート主体の第1主題だった第5ソナタくらいだろうか。

最後の「地震」だけは速い迫力のある曲で、「決まった」と思った。紀尾井ホールの客層は、これまで聞いてきたどのコンサートホールの聴衆よりも品が良く、マナーが良かった。暖かい拍手に迎えられて幾度となく姿を現した指揮者には大きな拍手が送られていた。なお、前半のバッハの後には、アンコールとして同じ曲のカデンツァ(作曲はヘルメスベルガーで、ウィーン・フィルのコンサートマスターだった人である)が演奏された。

「最後の七つの言葉」は聖金曜日に演奏されるために作曲された。今年のそれは4月15日であった。今回の演奏は丁度その一週間後だったということになる。なかなか楽しめないコンサートだったが、本当にこの曲はそれでいいのだろうか。手元にムーティ指揮ベルリン・フィルによる演奏の録音がある。もう一度きっちりと聞いてみたいと思う。少なくともそのようなきっかけを作ってくれたとは言えるのだから。

紀尾井ホールは格調高い雰囲気のホールだが、トイレが二階と地階にしかないという構造的な欠陥がある。そういうこともあって、どことなく好きになれない雰囲気に終始した。だがそれもこれも、週末の仕事帰りといいうことを差し引く必要はあるだろう。

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