2019年4月7日日曜日

ラフマニノフ:交響的舞曲(ロリン・マゼール指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団)

クラシック音楽には3種類ある。最初からいいと思う曲、次第にいいと思うようになる曲、いつまでたっても馴染めない曲、である。ベートーヴェンの「田園」やショパンの多数の曲は最初からいいと思う曲だが、いつまでたってもいいと思わない曲もある。私の場合、ストラヴィンスキーの「火の鳥」、リヒャルト・シュトラウスの「ドン・キホーテ」、ベートーヴェンの「荘厳ミサ」などがこれに該当するが、いずれも大作曲家の名曲なので、聞き手の音楽性がついていけてないだけかも知れず、やがて「素晴らしい作品だ」などと思うかも知れない。そういえば、ハイドンの「イエス・キリストの十字架上の最後の7つの言葉」や、マーラーの交響曲第7番などは、次第にいい作品だと思うようになった。

ラフマニノフの最後の作品、交響的舞曲(いまなら単に「シンフォニック・ダンス」と言う方がわかりやすい)もまた、そのような作品である。私はこの曲を初めて聞いた時(サイモン・ラトルが指揮するベルリン・フィルの映像だった)、あまり楽しい作品だとは思わなかった。退屈だった。もしかするとそれは演奏のせいかも知れない。けれども昨年、この作品をとうとう生の演奏会で聞くことになり、これは克服しておかないといけないと思い立ち、事前に聞いて馴染んでおくため、いくつかの過去の録音を探してみたところ、マゼールが指揮するベルリン・フィルの演奏があることがわかった。このような曲はマゼールのような、都会的で洗練された、職人芸的演奏ならもしかするといいかも知れない、と直感的に思ったのは正解だったようだ。

3つの異なるダンス(といっても本当に踊るためのものではなく、これはあくまで聞くためのもの、だから交響的だ)が登場する。まず第1楽章は行進曲風のザクザクと刻むようなリズム。ピアノも登場する。中間部にはサクソフォーンを始めとする管楽器が活躍する、夜のムード満点の哀愁を帯びたメロディー。

続く第2楽章はワルツ、すなわち3拍子である。幻想的だが不安定で、幻惑的とでも言おうか。ヴァイオリンのソロが、深夜の街のような風情を醸し出す。チャイコフスキーのワルツのような、まるで絵にかいたようなものではない。そういうところが都会的、近代的ではあるのだが、そこはラフマニノフ、どことなくロシア風のメロディーになる。そして終楽章ではアレグロで鮮烈なリズムが絶え間なく変化するような鮮烈な音楽である。

この第3楽章を頂点として、このような作品を作品としてきっちりと聞かせるのは、職人的な腕前が指揮者にも奏者にも要求されると思う。だから、マゼールとベルリン・フィルの演奏したこの曲は、文句のつけようがない満点の出来栄えであると思う。バルトークを思わせるような音楽は、もしかすると演奏家を選ぶ。けれども今やYouTubeで簡単に様々な演奏に出会える時代である。ちょと検索して見れば、アンドレス・オロスコ=エストラーダの指揮するhr交響楽団のライブ映像に出くわした。

映像で見るライブ演奏は、集中力を持って見るには時間とエネルギーを要し、かといって聞き流すには目障りだったりする、という厄介なものであると最近思う。集中するなら実演で、でなければ簡単に持ち歩いて、何かをしながら聞きたいものだ。だから私は、趣味の街道歩きに様々な音楽を持っていく。満開の桜が青空に映える頃、私は奥州街道を歩くことにした。

起点の宇都宮からしばらくは単調な国道沿いの道が続く。こういう目的でもなければ歩くことなどない道である。歩道があって歩きやすいから、こういう道を長く歩くときに、私はWalkmanに持ち出した曲を聞くことにしている。そして今日は、ラフマニノフの交響的舞曲を聞いていた。春の陽射しが初夏のようにまぶしく、遠くには雪が残る日光連山や男体山などを拝むことができる。桜は古い神社や学校の校庭などに咲いているが、わざわざ見に来る人もほとんどいないような風景を独り占めしながら、しばし音楽に耳を傾けていた。

「アレコ」間奏曲、ヴォカリーズがこのあとに収録されている。クールでありながら色彩感に溢れた演奏がとても素晴らしいので、曲もまた生き生きと映えてくる、というひとつの典型例であると思う。

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