2019年7月12日金曜日

ワルトトイフェル:ワルツ・ポルカ集(ヴィリー・ボスコフスキー指揮モンテカルロ国立歌劇場管弦楽団)

今でも放送されているのか知らないが、NHKの「名曲アルバム」という短い番組は、気軽に音楽旅行を楽しむことのできる番組だった。この番組はいつ放送されるのか、事前に把握しておくことは困難で、新聞のテレビ欄に「名曲」小さく載っていたところでわざわざチャネルを合わせるほどでもない。けれども野球中継が早く終わった時や、深夜の台風情報の合間などには、いくつもの「名曲アルバム」が流れて、そのまま見るしかないような隙間の番組だった。

この番組には「モルダウ」とか「大学祝典序曲」のような小品が特に取りあげられ、誰もが親しむことのできるクラシックのポピュラー名曲に合わせ、その音楽にちなむ映像が字幕の解説とともに付けられていた。この映像がなかなか良くて、作曲家の生家や暮らした街の情景などが居ながらにして楽しむことができるのだった。その中にワルトトイフェルのワルツ「女学生」というのがあった。パリのカルチェ・ラタンの風景を映した噴水の映像を、なぜかよく覚えている。

ワルトトイフェルはアルザス地方に生まれたフランス人で、ヨハン・シュトラウスと同様に数多くのワルツやポルカを作曲している。ここでワルツはウィーン風のそれではない。従って、あのウィーン訛りとも言うべき独特のアクセントのないワルツである。例えば「スケーターズ・ワルツ(スケートをする人々)」という有名なワルツも、ウィンナ・ワルツではなく、普通にブンチャッチャとなる。

今回取り上げるCDで、肩ひじ張らないワルトトイフェルのワルツやポルカを指揮しているのは、ウィーン・フィルでコンサート・マスターを務めた後、あのニューイヤー・コンサートを何年も指揮したボスコフスキーである。これはワルツの第一人者にワルトトイフェルの作品を振らせたレコード会社の企画なのだろうか。そしてモンテカルロの歌劇場のオーケストラらしく、きらびやかな音色がアナログ録音で良くとらえられている。

「名曲アルバム」の最大の欠点は、どのような曲であれ5分という時間にピタリと収まるように演奏されていることだ。このため編曲がなされ、ストップウォッチを見ながら音楽のスピードが調整されている。今ではテレビ放送も垂れ流しの状態だから、いっそ時間は無視して、いい演奏に映像をつけてくれればとも思うのだが、そういう番組だとかえって締まりがなくなってしまうような気もする。

ワルツ「女学生」を聞いていると、何かとても懐かしく、そしてうきうきとした気分になってくる。この時期、梅雨の鬱陶しい陽気を打ち払って、夏のフランスに出かけてみたくなるのは「名曲アルバム」の効果だろうか。夏に聞きたくなるCDである。なお、ワルツ「スペイン」はシャブリエの「スペイン狂詩曲」を円舞曲に編曲した作品である。


【収録曲】
1 .ワルツ「スペイン」作品236
2. ポルカ「真夜中」作品168
3. ワルツ「スケートをする人々」作品183
4. ギャロップ「プレスティッシモ」作品152
5. ワルツ「女学生」作品191
6. ポルカ「美しい唇」作品163
7. ワルツ「歓呼の声」作品223
8. ポルカ「フランス気質」作品182

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