チェコの作曲家、アントニン・ドヴォルジャーク(我が国ではドヴォルザークと書くことが多いが、ここでは原音に忠実にドヴォルジャークと記す)は、その音楽史における功績以上にファンの多い作曲家とみなされている。憂愁を帯びた親しみやすいメロディーは、遠い田舎の記憶をよみがえらせるようで忘れ難い。けれども9曲ある交響曲の、前半のものなるとほとんど聞くことのない作品となる。第1番から第5番までは、実際私も聞いたことがない。
ドヴォルジャークの交響曲は第9番「新世界より」が最も有名で、番号か下るにつれて次第に演奏されなくなる。だがそれもせいぜい第6番まであろうか。実際、この交響曲第6番ニ長調作品60は、かつては交響曲第1番と呼ばれていた。
交響曲第6番は、しばしばブラームスの交響曲第2番の影響がみられると言われる作品である。調性が同じニ長調ということもある。そしてブラームスの交響曲第2番はまた、ベートーヴェンの交響曲第6番「田園」に例えられる。大作曲家が残した牧歌的で伸びやかな交響曲作品のつながりが、ここに見て取れる。それではドヴォルジャークの交響曲第6番を聞いていこう。
第1楽章はソナタ形式。ここで最初に思いついたことは、何かスメタナの「わが祖国」に登場する交響詩「ボヘミアの森と草原から」を思わせるようなメロディーだということだ。第2楽章アダージョも牧歌的な魅力を伝えてやまない。しっとりと詩的な情緒を湛えている。
第3楽章はスラヴ舞曲。フリアントと名付けられている。フリアントとは変則的なリズムと急速なテンポが特徴のチェコの民族舞曲のことである。最後の第4楽章フィナーレは、アレグロ・コン・スピリート。幸せな気分で大団円を迎え、45分に及ぶ交響曲が幕を閉じる。
国民楽派と名付けられる後期ロマン派の一時期にあって、ドヴォルジャークは生まれ故郷ボヘミアを愛し、その民族的曲調をあらゆる作品に付け加えた。どの作品も哀愁と幸福感に満ちているあたりが、交響曲作品に深い精神性を求める聞き手には物足りないのかも知れない。けれども私のようなお目出度い聞き手は、このような親しみやすい音楽を好む。
全体的にしっとりとした抒情性と、スラブ風の快活なメロディーに溢れる作品だが、従来のシンフォニックな演奏よりも室内楽的な集中力で、この作品の新たな側面を切り取った演奏がお気に入りである。デンマークの指揮者トーマス・ダウスゴー指揮によるスウェーデン室内管弦楽団による演奏は、Opening Doorsと名付けられたBISレーベルのシリーズで、数々の作品に新たなスポットライトを浴びせている。このドヴォルジャークの第6交響曲においてもまた、SACDのクリアーな響きが耳に新鮮だ。 まさにドアを開けて、さわやかな朝の風を受け、広がる明るい風景を眺めたくなるような気持になる。小規模なオーケストラながらも迫力を持ち、この曲の魅力を十全に引き出している。
ドヴォルジャークの交響曲第6番は、最初に出版された作品であることは先に触れたが、作曲順ではこの前に、交響曲第3番として発表された第5番がある。一般にドヴォルジャークがボヘミアのメロディーを作品に取り入れだすのは、交響曲第5番からだと言われている。であれば、第5番を聞いてみたくなる。 ただ、その前に交響曲第2番として発表された交響曲第7番に、先に触れておきたいと思う。
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