ドヴォルジャークの第5交響曲の冒頭は、序奏がなくいきなりクラリネットの主題で始まる。牧歌的でヘ長調と言えばベートーヴェンの「田園」を思い出すが、この曲の第1楽章はもっと起伏に富み壮大である。どことなくワーグナーを思い出すようなメロディーも登場するが、これ以前の交響曲で見られる明らかなワーグナーの影響からは、むしろ脱却している方だという。
第2楽章もアンダンテとなっているが、それなりに壮大で、続く第3楽章も似たような感じである。つまりこの曲は、ずっと同じように適度に起伏を持ち、自然と民謡が溶け合うドヴォルジャークの特徴と相まって、ボヘミア地方のなだらかな風景を見続けているような気持になる。重々しい旋律もその底流は明るく、骨格もしっかりしているので、初めて聞く曲でも飽きることはなく楽しい。ただ後期の交響曲と比べると、どうしても見劣りがしてしまう。第5番から第7番まで聞いてきて、やはりこの順に音楽的な完成度は向上し、ドヴォルジャークの作風が自信とともに確固たるものになってゆくのを目の当たりにする。すなわち、第8番が第7番に続き、そして第9番「新世界より」で出世街道の大団円を迎えるというわけである。
チェコ人の指揮者であるイルジー・ビエロフラーヴェクは、首席指揮者だったチェコ・フィルを指揮して、ドヴォルジャークの交響曲全集を録音している(2014年、デッカ)。思えばドヴォルジャークの交響曲全集は、かつてデッカにハンガリー人だったイシュトヴァン・ケルテスが残したものが有名で、おそらく9曲全部というのは最初ではなかっただろうか。その後、ラファエル・クーベリックがベルリン・フィルと残しているのも記念碑のような名盤だ。けれども、チェコ人によるチェコのオーケストラとの全曲演奏は、思いつくところヴァーツラフ・ノイマン以来ではないだろうか。
ここで聞ける最近のチェコ・フィルは、ボヘミア的というよりはよりインターナショナルな響きである。けれども録音の良さと言い、演奏の完成度といい申し分なく、現在望みうる最高のドヴォルジャーク交響曲全集である。そのビエロフラーヴェクは、次に来日したら聞きに行ってもいいななどと思っていたのだが、知らない間に亡くなっていた。2017年のことだという。享年71歳。指揮者としてはまだまだ若い方である。
実は1994年のN響の第九で、私は一度だけこの指揮者に接している。今となってはこれといった記憶がないのだが、記録によればこの演奏会のソプラノは、やはり今年61歳の若さで亡くなった佐藤しのぶだった。そういえば、今年も残すところあと1か月となった。まことに年月の経つのが早い、と実感するこの頃である。
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