2025年11月27日木曜日

映画:宝島(2025)

映画「国宝」を見た翌日、「宝島」を見た。「宝島」は直木賞作家の真藤順丈による小説が原作だ。私はこの本を出版と同時に読み、その内容に深く感動して自身のブログにも書いたほどだ(https://diaryofjerry.blogspot.com/2019/10/2018.html)。その作品が映画化されてすでに公開されているとは、最近まで知らなかった。両作品とも3時間に及ぶ大作だが、「宝島」には「国宝」の2倍以上の製作費がかけられたらしい。それにもかかわらず、「国宝」の評判に比べると「宝島」の評判は圧倒的に低い。

なぜそうなったのかを考える上で、注意すべきことがある。タイトルに「宝」の文字が入っているものの、両者の映画はまったく異なる性質を持っている。「国宝」は歌舞伎役者の人生や関係者との対立・親睦を描いており、映像作品としての美しさも手伝って極上のエンターテインメントに仕上がっている。一方、「宝島」は米国占領時代の沖縄の現実を描いた社会ドラマであり、その内容は非常にシリアスである。

「宝島」が描き出す、まるで発展途上国のような当時の沖縄の現実は、これまであまり取り上げられてこなかったように思う。あまりに激しく、悲しい現実だからだ。しかし、小説「宝島」はこの問題に真摯に向き合い、東京出身の作家であるにもかかわらず方言を巧みに使い、見事な長編小説に仕上げている。登場する5人の主人公、オンちゃん、グスク、レイ、ヤマコ、ウタをはじめとするすべての登場人物が、当時の沖縄の人々の立場や考え方の違いを象徴的に体現している。しかし、彼らが共通して抱き続けるのは、沖縄の厳しい現実をなんとかしたいという根源的かつ人間的な欲求であり、それがこの物語の主題である。

アメリカ兵にひき殺されても、小学校に戦闘機が墜落しても、占領下の沖縄には自治権がなかった。戦前の沖縄は日本の一部であるにもかかわらず、太平洋戦争の戦場となり、住民の4人に1人が亡くなった。しかも、そのあとの長い占領時代が続いた。さらに、それが終わって本土復帰した今でも、多くの基地が存在し続けているのは周知の通りだ。したがって、この映画は少し前の沖縄を舞台にしているとはいえ、今日的な問題としての性質をそのまま受け継いでおり、それがこの映画を見ることの意義である。「国宝」にはそのような社会的視点はない。本質的にテーマにしていることが違うのだ。

長い原作を映画化するに際して、『宝島』もずいぶん苦労したのではないだろうか。当時使われていた沖縄の方言が多用されていることも難解さに拍車をかけているが、これは公開からしばらく経って、字幕を付けることにより解消された。この字幕がなければわかりにくいだろう。しかし、字幕があってもこの小説を読んだことがある場合と比べると、やはりストーリーの複雑さは否めない。

共通の目的があった初期の「戦果アギヤー」からしばらく経って、3人の進む道は少しずつ分かれていく。彼らを含め、その周りにいるコザの人たちや米軍関係者、日本政府関係者など、それぞれの立場が微妙に異なることは今日の沖縄の複雑な政治状況にそのままつながっている。だからこそ、その違いをもう少し強調すべきだったように思う。

行方不明になったオンちゃんを追う3人は、それぞれ異なる道へ進むが、孤児として花売りをしていた少年ウタによって結びつけられ、共通の目的であるオンちゃんの消息を長年にわたって探ろうとし続ける。その間にコザ暴動や毒ガス武器配備の隠蔽事件などが次々とおこるが、その多くは事実に基づいている。映像が作り出すどこか中南米の植民地のような基地の街でデモが起こり、車がひっくり返されて火がつけられ、「アメリカ出ていけ!」とデモが叫ぶ。メジャーな映画でこのような作品が、あっただろうか?

しかも、この映画は沖縄の人によって書かれたわけではなく、沖縄の俳優によって演じられているわけでもない。それにもかかわらず、真正面から沖縄の問題を取り扱っていることに震えるような感動を覚える。多大な費用がかけられ、気鋭の監督が指揮し、第一人者の俳優が演じるというのは、恐ろしいほどに見事だし嬉しい。

しかし、小説を読み終わったときに感じるのは、沖縄の海に吹くすがすがしい風だ。その心地よい、どこか寂しい気持ちを内に秘めた中に、三線が鳴り響き、エイサーが踊られる。海が青ければ青いほど、沖縄の悲しみは深く、大きい。この沖縄の情景を、最後にもう少し表現してほしかった。

だが、そういったことはあと一歩で満点になるテストに難癖をつけるような話だ。もっと多くの人が見てほしいと思う映画であるからこそ、あとわずかな改善がなされるといいなと思う。あるいは、この映画を機に、今まで正面から語られてこなかった現代の沖縄史を、もっと多くの人が取り上げていくことになればと思う。それほどの重量感を持つストーリーは迫真に満ち、真摯な感情表現に魂を揺さぶられるが、見終わると不思議と気持ちが浄化されたような気分になる。そんな魔法のような話を「国宝」を上回る時間、まったく飽きずに一気に見ることができる。

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