2014年1月21日火曜日

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」(クラウディオ・アバド指揮ルツェルン祝祭管弦楽団、他)

昨日1月20日クラウディオ・アバドが死亡した。突然の訃報に言葉を失い、またひとつの世代が過ぎ去りつつあるように感じられた。私のアバドとの出会いは中学生時代、LPによるロッシーニの序曲集と、モーツァルトの「ジュピター」交響曲であった。村上春樹の小説「ねじまき鳥クロニクル」の冒頭に、そのアバドの演奏で歌劇「どろぼうかささぎ」序曲を聞くシーンが出てくるのを読んで、ニヤっとした覚えがある。

だが私のアバド実演体験はただの1回しかない。1992年1月、ベルリン・フィルの音楽監督になった時の大阪公演でブラームスを聞いた時だけだ。この時のベルリン・フィルの演奏は、私にとっても初めてのベルリン・フィルだったが、さほど印象的ではない。確かにこの時期のベルリン・フィルの演奏は、東西ドイツが統一される頃の演奏で、カラヤン後の一種の停滞期にあったように思う。けれどもベルリンにおけるアバドの活躍は、その後に大変充実したものとなり、ラトルの時代になってその花が開いた。

アバドの演奏は「ベルリン以前」のロンドン交響楽団、シカゴ交響楽団、ヨーロッパ室内管弦楽団、あるいはミラノ・スカラ座での活躍など枚挙に暇がない。一方、「ベルリン後」にもモーツァルト管弦楽団やマーラー室内管弦楽団などとの名演の数々が多く残されていることに嬉しさを禁じ得ない。もちろんウィーン・フィルとはブルックナーやベートーヴェンの交響曲録音を残している。

今夜はそのアバドの追悼盤として何を聞こうかと考えたところ、このCDを置いて他にはないというものが私のCDラックにもあった。2003年にルツェルン祝祭管弦楽団を組織して演奏したマーラーのライブ録音である。アバドがこの交響曲第2番を録音したのは、シカゴ、ウィーンに次いで3回目である(カップリングはドビュッシーの「海」)。そしてこの3回目の「復活」は、彼自身の新時代を祝う新しい演奏でもあった。この演奏には他の演奏にはない思いが込められ、それを録音から感じ取ることができる。この時期のアバドは、まだ病からの復帰途上にあったが、音楽をする喜び(というよりは感謝の気持ち)に溢れている。

2003年当時から今日に至るまで、私もまた大変な闘病の中にある。だからアバドの指揮台への復活は、私にとってもこの上ない喜びであった。ベルリン・フィルとイタリアへ里帰りし、ビデオ収録したベートーヴェン交響曲全集は、私にとっての宝物である(「ブランデンブルク協奏曲」も!)。

第3楽章から始まる後半の演奏部分(CDでは2枚目)では、大いなる感銘とともに、特別な熱気と高揚を感じることができる。特に最終楽章におけるアバドの、献身的とも言えるような自然さの中に、圧倒的な感動が沸き上がってくる様子は喩えようがない。最終楽章こそがこの演奏の白眉である。アバドがこの最終楽章(40分もある!)に最大の重心を置き、それに向かって前半の楽章を構成したことは明らかである。特に終盤は音楽を聞く喜びに涙さえ禁じ得ない。

マーラーはこの交響曲で、ベートーヴェンの「第九」に勝るような作品を書いた。舞台外にも楽隊を配置し、2人の独唱(ここではソプラノのエテリ・グヴァザヴァと、メゾ・ソプラノのアンナ・ラーション)に合唱団(同様にオルフェオン・ドノスティアラ合唱団)を加えている。1時間を越える作品は常に感動的で、この曲がコンサートで取り上げられる時は必ず聞きに行く人も多い。

私もこの曲に関しては、数々の思い出があるが、今日はそのことを横において、アバドの演奏に耳を傾けている。この演奏におけるルツェルン祝祭管弦楽団は、かつてバウムガルトナーが率いていた頃のローカルなオーケストラとは異なり、第1級のオーケストラ・メンバーがヨーロッパ各地から駆けつけた、比類ないものになっている。だがそのことがまさにアバドの魅力を物語っている。アバドほど多くのオーケストラから慕われた指揮者もいないのではないか、と思うからだ。

アバドはこの演奏の頃から、本当に音楽を心から楽しんで演奏しているような感じであった。真面目にヴェルディやロッシーニの埋もれた作品に挑んだ若きホープとしての初期から、晩年の円熟期に至るまで、アバドの演奏は常に時代の中心にいた。多くの同年代の指揮者の中にあって、アバドは常に一歩先を行き、新しい境地を示していた。優等生の演奏はしばしば生真面目だと言われた。だが彼の音楽を愛する者は、それこそが最高の褒め言葉であると信じていた。享年80歳。全曲を聴き終わってから、もう一度第2楽章が聞きたくなった。

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