
若々しくて明朗な作品は、ベートーヴェンの陽気な部分が鮮やかに現れたもので、伸びやかな旋律はこの曲がハ長調で書かれていることもあってとても好ましい。初めて聞いてもメロディーが印象に残るだろうと思う。明快なソナタ形式の第1楽章の終わりにカデンツァが置かれているが、このカデンツァではベートーヴェン自身のものが使われることが多い。しかもそれは5分以上もあるかと思われる長大なもので、それだけでピアノ・ソナタ一楽章分の長さを誇る。最大の聞きどころといっていいこのカデンッアについては、また別に書こうと思う。
第2楽章のラルゴは、初春の陽光が降り注ぐ昼下がりのように、仰ぎ見ながら深呼吸したくなるような喜びを感じるのは私だけだろうか。ここの音楽をたっぷりと、瑞々しくもロマンチックな演奏(かつては多かった)でもいいけれど、最近のテンポ早めの流れるような演奏が、今の私のお気に入りである。若いということはいいと思う。ベートーヴェンのウィーンでの活躍は、ピアノの名手としてであった。1795年のこの曲の初演では、師のサリエリが指揮をしたと記録されている。
数多あるこの曲の録音のうち、私がこれまで聞いてきたものだけで何種類もあるが、ここでは目下の一番好きな演奏を挙げておこうと思う。それはアンドラーシュ・シフがピアノを弾き、ベルナルト・ハイティンクが指揮をした1996年のテルデック盤である。この演奏は全集としても発売され、どの曲もすこぶるいい。ハイティンクの溌剌とした指揮が大変好ましく、結構早めのテンポだが、シュターツカペレ・ドレスデンの響きに一定の重みがあり、快活さとシフの明晰なタッチにうまくブレンドされて、この上なく上質の音楽に仕上がっている。何か特に意味ありげな演奏というのではなく、あくまでストレートに音楽を聞く楽しみを味わわせてくれる、吟醸酒のような名演だと思う。
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