Reformation(宗教改革)は中世ヨーロッパ社会を二分する一大事件だったが、それから300年を経た記念祭に演奏する目的で、メンデルスゾーンは交響曲の作曲を決意する。彼自身、熱心なルター派のプロテスタントであり、その彼が特に誰に言われるともなくこの曲を手掛けるあたりが聞き手の想像力を掻き立てる。自身のキリスト教信仰が、ユダヤ人であった彼の前で、アイデンティティを試す踏み絵として立ちはだかったのではないか・・・。
バッハの「マタイ受難曲」を蘇らせたメンデルスゾーンだったが、キリスト教への深い信仰と共に、ユダヤ人である自身の生い立ちとの共存を迫られることになった。これは20歳になろうかという青年時代に、いくら順風満帆な芸術家人生を送ってきたとはいえ、避けて通れない大きな問題として彼を苦しめたのではないだろうか。その苦しみは、この交響曲がなかなか初演を迎えることができないという様々な政治的理由により、より明白なものへとなってゆく・・・。
そのあたりの初演の経緯は種々の資料に詳しいが、では彼の内面はどのようであったかは、なかなか知る術がない。5曲の交響曲のうちでも、飛び抜けて有名な「スコットランド」と「イタリア」を除けば、他の3曲が実際に演奏されることもあまりない。だが素人的には、後年に「エリア」や「聖パウロ」といた宗教的オラトリオ作品(の中にはより後年に作曲された第2交響曲も含まれる)へと発展する最初のステップだったのではないか、と私には思われる。
この曲は構成が複雑で分かりにくいが、いい演奏で聞くと味わいがある。誤解を招くことを承知でかなりいい加減なことを書くと、この曲は春夏秋冬が同時に来たような曲である。第1楽章の荘厳な序奏に続く主題は、丸で嵐の中を船で行くような音楽である。大河ドラマを思わせる雰囲気は「冬」。
これに対して親しみやすいメロディーの第2楽章は、うきうきした「春」を思わせる。メンデルスゾーンのメロディーだ。続く第3楽章は「秋」。ここには後期のロマン派の香りがするが、やはりこの曲も親しみやすい。やがてフルート独奏によって静かに奏でられる祈りのメロディーにより、そのまま第4楽章へ入ってゆく。明快なフィナーレで、大変な気持ちの入れようを感じるフーガ仕立ての第4楽章は「夏」の音楽である。
もともと少ない録音数なのでいい演奏に出会うことも少ないようだが、私は昔からトスカニーニのモノラル盤を時々聞いていて、それに不足がない。というよりもこれに勝る名演奏はないのではないか、といつも思ったりする。そういうことだから、なかなか他の演奏に手が出せないのが実情である。アバドなどで聞いても、この曲の良さがちっとも伝わってこない。
このトスカニーニ盤のライナー・ノーツには示唆に富む内容が記載されている。初期ロマン派と後期ロマン派の作風を比べた上で、前者の代表格であるメンデルスゾーンは、やはり前者の音楽的志向にマッチしたスタイルを持ち味としたトスカニーニこそ、その演奏の最右翼として位置づけられるということだ。そうだからこそ、トスカニーニはこの曲を何度も演奏した(ちなみにその演奏回数は「イタリア」よりも多かったらしい)。
カップリグされている「イタリア」を含め、モノラルながら歴史的名演である。1953年の録音で、トスカニーニが倒れる前年の87歳の録音だ。トスカニーニの流れを受け継ぐ演奏家としてはカラヤン、そしてムーティを挙げるべきだろう。これらの指揮者による「宗教改革」の演奏には一度耳を傾けてみたいと思っている。
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