2014年5月20日火曜日

メンデルスゾーン:カンタータ「最初のヴァルプルギスの夜」(ユージン・オーマンディ指揮フィラデルフィア管弦楽団)

メンデルスゾーンの作品を語るにあたって、彼の涙ぐましいまでの宗教的大作の数々に触れないわけにはいかない。特に晩年は「聖パウロ」、「エリア」、「キリスト」などといったオラトリオなどの合唱曲を精力的に作曲したが、その日常は異様なまでに忙しく、38歳だった彼は病床で次の最後の言葉を残したことは有名だ。「忙しい。あまりに忙しい」と。

私はメンデルスゾーンが天賦の才能を持ちながらも、最愛の姉ファニーを亡くすなどの精神的ショックも重なって、今で言う過労死を遂げたのではないかと思っている。なお、「聖パウロ」「エリア」それに未完に終わった「キリスト」などは別の機会に書こうと思う。

これらの宗教的大作の中にあって、その最初の本格的作品ではないかと思っているのがカンタータ「最初のヴァルプリギスの夜」である。台本は文豪ゲーテ。彼はこの戯曲をメンデルスゾーンの音楽の先生であったツェルターに捧げ作曲を薦めたようだ。だがそれは果たされず、弟子のフェリックス・メンデルゾーンが音楽に仕上げた。1832年の作品だが、改訂を重ね1843年に完成した。

私はこの作品をユージン・オーマンディが指揮する往年のフィラデルフィア管弦楽団のディスクで知った。タワーレコードと共同で世界初CD化された名盤の復活は、しかしながら誰の見向きもされていない(ように見える)。それどころか最初に発売された時でさえ「極めて充実した演奏によって、これまで発売された盤のいずれもを凌駕するほどの出来栄え」であったにも関わらず、「まったくと言っていほど話題にならなかった」(ライナー・ノート)と書かれている。

だが、この演奏を待ち望んでいた人はいたのだ。1978年の演奏にもかかわらず、その響きは驚くほど新鮮でしかも充実している。この時点でマエストロは79歳、にもかかわらず飛び抜けた迫力と集中力があり、合唱を含めてそのスケールの大きさたるや、特筆に値する。勢いのあるメンデルスゾーンの若い頃の作品の魅力を堪能することができる。

最近はテレビドラマも映画でも、最初に主題歌が歌われることは少なくなったが、今でも大河ドラマや水戸黄門、それに子供向けアニメなどでは最初にまず主題歌が歌われる。言ってみれば、あれが序曲である。この曲は35分程度の曲ながら10分足らずもの間、序曲が鳴り響くあたり、何か非常に力が入っている。

冬が終わり、春が来るというところから音楽は始まる。次から次へと合唱のメロディーが出てきて、休む暇もない。メンデルスゾーンは、いわばハイパーな人だったのではないか、などと考える。全部で9曲から成るが、音楽は続けて一気に演奏される。ドイツの古い言い伝えでは、キリスト教が強制される中で異教徒が山脈に集い、彼らの古い信仰の儀式をとり行う。

なかなか見当たらない邦訳がCDにきっちり添付されているのもありがたい。キリスト教徒が逃げ出すまでの音楽は、独唱と混声合唱によって大々的に歌われていく。今でもこのお祭りは、4月30日の夜からドイツや北欧各地で繰り広げられるそうだ。

作曲はイタリア旅行中に完成したようだが、このメンデルスゾーンのヨーロッパ各地への旅行については、他の作品で触れることにしたいと思う。なぜならこの旅行によって、数々の有名な曲、中でも「スコットランド」と「イタリア」が生まれたからだ。 なおCDの余白には序曲「フィンガルの洞窟」他が収められている。これらもなかなかの名演である。それにしてもオーマンディという指揮者はいい指揮者だった。と同時に、この時期までのフィラデルフィア・サウンドはまさに黄金時代であった。

0 件のコメント:

コメントを投稿

ブラームス:ヴァイオリンとチェロのための協奏曲イ短調作品102(Vn: ルノー・カピュソン、Vc: ゴーティエ・カピュソン、チョン・ミュンフン指揮マーラー・ユーゲント管弦楽団)

ブラームスには2つのピアノ協奏曲、1つのヴァイオリン協奏曲のほかに、もう一つ協奏曲がある。それが「ヴァイオリンとチェロのための協奏曲」という曲である。ところがこの曲は作品番号が102であることからもわかるように、これはブラームス晩年の作品であり(54歳)、すでに歴史に残る4つの交...