メンデルスゾーンには有名な5曲の交響曲とは別に、弦楽器のみで演奏される交響曲が全部で13曲ある。1821年から1823年にかけて作曲されたこれらの作品は、まだ12歳~14歳だった頃の習作とも言える作品さが、それだけでは済まされない魅力があるのも事実で、そのあたりはやはりモーツァルトやシューベルトなど、早熟な天才のみが為し得る業績と言うべきだろうと思う。
だが、この作品が世間に良く知られているかと言えば、必ずしもそうではない。メンデルスゾーンの第一人者クルト・マズアが世界で最初の録音を敢行したことは、この作品が長い間埋もれたままであったことを示しており、そしてユダヤ人だったメンデルスゾーンが不遇の扱いを受けてきたことも思い起こさせる。
ところが90年代に入り、いわゆる古楽器奏法が主流になるにつれ、このような古典的な様式を残す作品はにわかに蘇ることとなった。少人数で良くまとまったアンサンブルが、アクセントをやや強めにかけて快速で駆け巡る様は、バロック作品に限らす新しい息吹を音楽に吹きこんだのだ。だが私は、このコンチェルト・ケルンの96年録音のCDを買った時、これらの曲を好んだかと言えば、実はそうではない。買ったのは「へえ、こんな作品があるのか」という程度の思いつきだったし、それをある日何の期待もせずCDプレーヤーにかけて鳴らしてみても、特段知っているメロディーが聞こえるわけでもなく、どちらかと言えば平凡で同じような旋律がいつまでも続くように思った。実際、何かをしながらの鑑賞は、若干800円程度だったこのCDを棚の隅っこに追いやり、以降、何年もの期間、再び気に留めることはなかったのだ。
やがてiPodはそのような、これまであまり真剣に耳を傾けて来なかった曲を、再び興味の真ん中に引き戻すだけの力を効果的に発揮した。今回改めて聞いてみたところ、録音も秀逸で、なるほど若さとみずみずしさに満ち溢れた作品じゃないか、などと思いなおすのである。
全部で13曲ある「弦楽のための交響曲」は、CD3枚程度の収録時間に及ぶが、私が持っているのはその中からいくつかの曲を抜粋した1枚である。そこに収録された作品は、以下の通りである。
第2番ニ長調
第3番ホ短調
第5番変ロ長調
第11番ヘ長調
第13番ハ短調
ここで、第11番が5楽章構成、第13番は単一楽章、他は3楽章構成である。
私は音楽の専門家ではないので、どの曲がどういうものかを解説する立場にはない。アマチュアのリスナーとしての感想は、第11番の新鮮さに尽きる。ここの最初の楽章は、長い序奏のあと変化のある速い部分が続き、ちょっとしたスリル感が快適に耳を打つ。続く第2楽章は「スイス民謡」と名付けられたスケルツォで、庶民的なメロディーが印象的である。何かのテーマ音楽に使いたくなるような感じだ。
第11番は全部で36分にも及ぶ大作だが、他の曲は小規模である。第2番は印象的な出だしだが、全体的には特に記すべきものはなく、第3番も地味だ。一方、第5番は第1楽章が良い。遅く始まる第13番は、単一楽章の作品だが、後半はフーガ風のメロディーが良くわかり、バッハの大作を世に知らしめたこの音楽家が、少年時代から対位法の研究にいそしんでいたであろうことを思い起こさせる。
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