愛用のウォークマンでマーラーを聞いた後、そのままにしていたら、どういうわけかメンデルスゾーンのピアノ四重奏曲が再生された。重い曲を聞いた後なので、室内楽のそれもピアノ入りは心地よい。それにしても半年以上プレイリストを更新していなかったから、前に入れた曲でまだ聞いていなかった曲があったことを忘れていたのだ。しかもこの曲、私は実に初めて聞く曲でどういう理由でコピーしたかもわすれてしまった定かでない。ABC順でMahlerの次にMendelssohnが来たということである。
早熟の作曲だったメンデルスゾーン。私は実を言うとメンデルゾーンが大好きで、これまで八重奏曲などを聞いて、若干16歳にしてよくこんな曲を書いたのだなあ、などと思っていたが、このピアノ四重奏曲に至ってはなんと13歳の時の作品ということになっている。第1番から第3番まであって、作曲は1822年から1825年。第3番はゲーテに献呈されている。当時メンデルスゾーンはベルリンに住んでいた。ゲーテはしばしばメンデルスゾーンに会い、モーツァルトにも比肩される神童ぶりを記している。メンデスゾーンもゲーテを尊敬し、いくつかの曲を献呈しているようだ。
「12歳のフェリックスを、ワイマールのゲーテに引き合わせたのもツェルターでした。この少年の人柄とピアノ演奏は、72歳の詩人の心をたちまちつかみまし
た。成人後、メンデルスゾーンは当時を回想して『もしワイマールの街とゲーテに出会わなければ、私の人生は違ったものになっていただろう』と述べています。」(フェリックス・メンデルスゾーン・バルトルルディ基金のホームページより)
いずれの曲も4楽章構成だが、特に第4楽章のヴィヴァーチェが印象的である。というのも聞き続けていくうち、もう次の曲に移ったかと思うと、これが最終楽章というのである。第1楽章から瑞々しい感性に溢れているのは言うまでもなく、第2楽章のような楽曲は暖冬の今年、春のような陽気に誘われて聞き続けるのが素直に楽しい。そしてこのような曲は「ながら勉強」などをするには大変好ましい。私もよく「無言歌集」を聞きながら高校時代は過ごしたことを思い出す。
バッハの「マタイ受難曲」を復活演奏したり、ライプチヒのゲヴァントハウス管弦楽団の指揮者を務めたりと、ドイツ音楽界にあって非常に影響力の大きかったメンデルズーンは、ユダヤ人であることから戦後のドイツではほとんど低い評価しか与えられていなかった。我が国でもメンデルスゾーンを研究する学者などほとんどいないのだろう。その理由からか日本語で書かれたメンデルズーンの書物というのがほとんどない(児童書に一冊、それに2014年に邦訳が出版された「メンデルスゾーン―知られざる生涯と作品の秘密」 、レミ・ジャコブ著くらいだろうか)。
なおこの演奏はドイツの奏者を中心に組織されたフォーレ四重奏団による。ピアノ、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの組み合わせによる曲は数が少ないが、この四重奏団は常設の団体だとうである。 演奏がとてもしっかりしているうえにメリハリが効いているので、ロマンティシズムを濃厚にたたえている。だから余計にこの曲が早熟な少年によって書かれたことを際立たせているようにも思える。
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