一方パトン・ビーチ方向やクロンテープ岬へと続く海沿いの道路は、交通量が多い上に狭く曲がりくねっており、しばしば渋滞も発生する。このため各ビーチから遠方へと急ぐ場合には、島中央部を縦断する幹線道路を利用する。例えば空港からカタ・ビーチへはこの幹線道路経由となる。幹線道路の両側には大型ショッピングセンターやガソリン・スタンドがあり、ワット・シャロンなどの見どころもある。今回もその縦貫道路を南端まで走る。峠からは東部の海も見渡せた。プーケットは海沿いの村や町が開発され過ぎ、国際的な高級リゾートと化しているが、島の東側では普通のタイの生活を見ることが出来る。もっともこの島全体はタイの中でも特殊であり、物価も高く、生活水準は並外れている。
ピピ島へのクルーズはホテルのフロント脇にあるデスクで申し込んだ。同様のツアーは街中いたるところのレストランやバイク屋などで扱われているが、結局はいくつかのボート会社に集約される。それぞれの会社は、概ねピピ島を中心としたいくつかの島々をめぐり、夕方には港に戻る。訪れる島の種類や順番が若干異なる。そしていくつかのボートはい高速船である。この高速船は通常のフェリーに比べると結構速いので、一日にいくつもの島をめぐることが可能となるわけである。朝には一斉に船が出て、無人島を含むシュノーケリング・スポットで一時停泊したりする。数十人程度の、国籍もバラバラな集団がひとつのボートに乗り合わせる格好となる。
途中、団体専用のレストランでの昼食もついている。私たち一家は、そのあまりに美しいパンフレットの写真に刺激され、3つの島を欲張りに回る会社に申し込んだ。港の入り口に着くと、各地から集まってきた人々が屋根のついたお庭に通され、そこで説明を受けることとなった。ガイドの女性は独特の訛りのある英語でジョークを交えながら、船酔いの対策や集合に遅れないよう注意することなど、一通りの説明のあと、私たちの乗る船の方向に向かって約5分の距離を歩き始めた。
船着き場には波止場がない。プーケット南部の海岸はあまりきれいではないが、そこに大量のクルーズ船が泊まっている。それらは海岸にズラリ停泊しているが、その船に乗るには海の中をじゃぶじゃぶと歩かなければならない。つまり私たちは裸足になり、裾をたくし上げて、ぬめる石などにつまずかないように注意しながら、荷物を頭上にあげて海を歩いて行くのだ。
私たちが乗るボートはそれほど大きくはなく、釣り船のようなものである。進行方向前方の、船が波を切って進む時には、激しく上下にジャンプする突端部分の両側の椅子に十数人がぎっちりと座り、残りの客は船の後方部に座る。ライフジャケットを着て出発である。静かに進むプーケットの海は波も静かで、雲一つない青空と海は明るく深い。きれいな島々を眺めながら、1時間半程度の行程に期待と興奮が高まる。ところが船が湾を出たとたんに、激しく揺れ始めた。
船は波を切りながら進むのだが、その波はインド洋をベンガル湾からやってくる外洋の波である。青々と深いその海には白波が立ち、時折大きな横波が小さな船にぶつかる。船長はその波を上手にかわしながら進むのだが、時折打ち付けるような衝撃が船を襲う。常にどこかを掴んでいないと飛ばされそうで危ない。立ち歩くなどもってのほかで、むち打ち症にならないか心配しながら緊張の時間が続く。時に頭を打ちそうになるが、この揺れは先端部だからで、後方ではさほどでもなかったと妻が言っていた。
こんなところで遭難したら大変だろうな、などと多いながら無人島の断崖絶壁のそばを通る。そしてとうとう私たちはピピ・レイ島に到着した。ピピ・レイ島のほぼ唯一の海岸、すなわちマヤ・ビーチは入り江が特徴的で、左右の丸く高い山が門のように湾を取り囲み、その間を分け入ってゆく。湾の内側から見るエメラルド・グリーンの海と、切り立った崖の風景は映画にも登場する絶景である。島は特別な自然保護下にあるため、人工的なものは何一つない。すなわちお店も日よけも、そして波止場も。船は沖に停泊し、そこから胸までつかりそうな中を歩いて上陸する。遠浅でしかも透明度が高いから、歩いて行くのも楽しいが、問題なのは船の数があまりに多いことである。どの船も良く似ているので、自分が乗った船がどこにあるのかわからなくなるのだ。船会社の名前と船体番号を記憶するのだが、頻繁に出入りするためどのあたりにあったか見当がつかなくなる、これは多くの客に共通であって、私たちは同乗してきた人々から離れないようにしながら、写真を撮ったり魚を見たり。思い思いに過ごす時間は30分もあれば十分である。とにかく日差しが強いのだ。
カイ島はまた、何もないとてもきれいな島で、突き出た部分は綺麗な海が270度広がる。海には小魚が泳ぎ、上からでも良く見える。海岸はレストランになっており、そこでパイナップルやスイカなどがふるまわれる。チェアに座ってじっと佇んでもいいし、シュノーケリングに興じてもいい。ここも次々にボートがやってきては客を下し、そしてまた去っていく。太陽が西に傾きかけた頃、私たちを乗せた船は再びプーケット島に到着した。約7時間くらいだっただろうか。私たちは多くのガイドブックが紹介し、バックパッカーがほれ込むピピ島というところに、ついに出かけたという感慨でいっぱいだった。

太陽がアンダマン海に沈むころ、私たちはホテルに帰り着いた。プーケットから見る乾季の夕陽は、ここが単に高級なリゾートということだけでない何かを感じさせてくれる。それは自由にして外国文化に寛容なタイの光景が、自然景観と溶け合っているからだろう。この雰囲気は他の東南アジアではなかなか得られない独特なものだと、つくずく思った。
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