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年末の予算編成に忙しいこの時期に私はわざわざ午後の休みを取って、雨の中を新宿3丁目まで歩いた。平日とはいえ結構な人出だが、そもそも新宿3丁目にバルト(Wald)などというドイツ語の映画館なんてあったっけ。何でも13階建て、全部で10以上もの会場がある、そんな大規模な映画館のひとつで上映されている。さすが天下のベルリン・フィルである。
ところが、何と400人以上入る館内に客はたったの15人程度。ロビーへ上がる前に1階の端末にクレジットカードをかざせば、席の予約と決済、それに発券までできるので大変便利。その席を取ろうとしたら、20分前というのに3席しか表示がない。何かの間違いではないかと思ったが、そうではなかった。すぐそばのスターバックスなど空席がないというのに、なんという落差。
さて上映が始まると、港の夜景が映し出された。向こうには高層ビル群。ベルリンにこんなところがあったっけ?と思っていたら、そこは何とシンガポールである。その風景に乗って早くも「巨人」の第1楽章が始まる。普通にスクリーンを見ると、二重に重なっているので慌てて眼鏡をかける。するとタイトルの文字が浮かび上がって幻想的。やがて館内の演奏風景へとスイッチすると、サイモン・ラトルが指揮をしている。ずらりと並んだホルンは、後ろにいくほど遠くに感じられるし、そうかこれは最終楽章のコーダで立って吹くな、などと考えていたら目の前をコンサートマスターの梶本大進の姿が通りすぎていく。

というわけで、3Dの映像に付き合っているだけで疲れてしまい、果たしていい演奏だったかどうかはよくわからない。敢えて言えば、この作品はもっと聴かせどころの多い作品だと思うが、どうもラトルの演奏が中途半端である。合わないような気がする。ベルリン・フィルはさすがだし、音響も見事なのだが、かつてCDで聞いた決定的演奏のハイティンク盤、音楽監督就任時に録画された印象的なアバドの映像などに比べるとあまり進歩がない。
だが、もう一つのプログラムであるラフマニノフで、この組み合わせは本領を発揮した。第1楽章の「真昼」。その迫力ある音楽は、3D効果の挿入画像に不思議にマッチして、何とも楽しい。シンガポールの人々の様々な生活シーンが、遠近感のある大画面に演奏と交互に登場する。 第2楽章「黄昏」は、リラックスした音楽が特に素晴らしく、第3楽章「夜中」にいたっても集中力はものすごい。
ラトルとベルリン・フィルの組み合わせに良く合っているが、このロシアの音楽が熱帯雨林気候の映像と組み合わさるのが不思議に面白い。会場につめかけていたのは、多くが若い人々でブラボー満開の拍手喝采の様子に、シンガポールのようなところにも立派なホールがあるものだと感心させられた。
わざわざ買ってまで見る作品でもないが、ラフマニノフは会心の出来栄えで満足度が高い。3Dである必要もないが、3Dのために作成したビデオ作品として、試行的な位置づけのものとしては話のネタにはなるかも知れない。それにしても大画面をほとんど独り占めのような状態で見ることのできる経験は、私にとってとても貴重であった。コンサートもこのようにして見る時代なのだろうか。
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