モーツァルトのピアノ協奏曲第7番は3台のピアノのために書かれている。そのことによってなかなか実演で接する機会はない作品である。何せピアノが舞台に3台、ピアニストが3人も要るのだから。だから私もCDでしか聞いたことがないのだが、その演奏も2台のピアノ用に編曲されているものが多く、この場合を含め「2台のピアノのための協奏曲」(第10番)とカップリングされることが多い。
3人ものピアニストが要るとはいえ、3人目のピアノ・パートは比較的平易であると言われている。私は聞いていても、どこがどのピアノなのかよくわからないのだが、その違いを感じる名演が、バレンボイム、シフを独奏に迎えた演奏である(というかこの演奏しか知らない)。ここで3台目のピアノは著名なピアニストであるゲオルク・ショルティで、彼はオーケストラの指揮もしている。
第2楽章のアダージョがとりわけ美しい。このフレーズを聞いていると、どこか未熟な感じを持っていたこの曲の魅力がここに隠れているような気がしてくる。そこから第3楽章の終わりまで、何ともうっとりするような演奏である。聞き終えると、続く第20番のピアノ協奏曲K.466(ニ短調)の出だしがかえって鬱陶しいような気持ちになるから不思議である。
第2楽章の美しさは、丁度この時期、春から夏に向かう暖かい季節にピッタリである。オーケストラの序奏に続いて主題が展示されたあと展開される時に、装飾的な音を伴って2台のピアノが溶け合っていく。派手さはないがしっとりとした落ち着きがあり、高貴である。おそらく3台目のピアノもどこからか登場する。すなわち3人の名ピアニストが独自の主張をすることを控え、むしろ協力的に音楽へ奉仕している。さりげないにもかかわらず見事な調和を見せるので、何かとても成熟したものを感じる。
なおこの演奏はジャックリーヌ・デュ・プレ基金のためのコンサートだったようだ。カップリングは2台のピアノのための協奏曲とピアノ協奏曲第20番で、後者ではショルティが引き振りをしている。
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