モーツァルトがザルツブルク時代に書いたピアノ協奏曲第8番は、目立たないがかわいい作品だと思った。もっともピアノのパートは献呈されたリュッツォウ夫人のために平易に書かれているということだ。だがモーツァルトはこの曲をしばしば演奏旅行で取り上げているという。
バッハで次々と名演奏をリリースしたカナダ人の女性ピアニスト、アンジェラ・ヒューイットがイタリアの室内管弦楽団を弾き振りしたCDをある日見つけ、そのカップリングもユニークだったこともあって私は衝動的に買い求めた。これがそのCDで、第6番、第9番とともに収録されている。第6番はすでに取り上げたし、第9番「ジュノーム」は名盤が数多くあるので、ここでは比較的に目立たない第8番に登場してもらうことにした。
ところがこの曲の第2楽章「アンダンテ」の美しさは、初めて聞いた私の心をキャッチしてしまった。 飾り気ないモーツァルトのもっとも自然で、しかも品を失わない姿がそこにひっそりと存在していたのを発見したからだ。ハ長調のピアノ協奏曲は、このあと13番、21番、25番と続く。第3楽章になっても、丸でソナタ作品を聞くようなそこはかとない雰囲気が心地よい。後年の、音楽史に名を残すようなきら星のごとき作品群ではない素朴なモーツァルトもまた、私は愛してやまない。
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