2017年2月4日土曜日

台湾への旅(2016)ー②新しい台北

旅行の初日から帰国するまでの数日間、私はこの「麗しの国」を実感することになる。それは天候が良かったからに尽きる。お正月を挟んだ冬の台湾は天気が悪い、とガイドブックには書いてある。雨がしとしと降り続き、時に肌寒くて滅入るというのである。だが今日の天気はどうだろう。空は青く、吹く風は涼しい。天気予報によるとこの先1週間、高温、快晴の天気が続き、気温は28度にも達するというのである。丁度日本では4月下旬か、あるいは初夏の陽気である。東京の冬もまた天気が良く素晴らしいが、暖かい空気ほど私を和ませるものはない。ホテルから一歩外に出ると、暖かくて柔らかい風が頬を撫で、私はまるでハワイかどこかのリゾート地にいるような感覚に囚われた。道は広く、週末の朝とあっては人はまばらである。

私の泊まったホテルは台北市の東の方角にあたる「南港」という地下鉄駅の真上にあった。「南港」に海はなく、むしろ山の方角である。ここに展覧会場がつくられ、いわば副都心としての性格を帯びつつある。その展覧会のある駅の1つ手前、すなわち台北駅寄りにある3棟建の高層ビルにホテル(コートヤード・バイ・マリオット台北)はあった。まだ新しくできたばかりのホテルで、私たちはここで快適な3日間を過ごすことになる。部屋の窓は南の方角を向いており、すぐ前に山が見えるのもまた嬉しい。ホテルの印象は旅行を決定的に左右するもので、私にとっての台北は、緑に囲まれた街、という印象である。


この南港駅は台湾新幹線の始発駅である。ターミナルにはMRTすなわち地下鉄の他に、いわゆる国鉄の在来線、そして新幹線(HSR、高鐵)が地下ホームで隣り合う。もっともこのあたりはまだ開発中で、建築中の空き地も目立つ。拡大を続ける台北の新しい顔となるのだろうか。ショッピングモールのベンチに腰掛けて見る光景は、どことなく日本の地方都市の駅前のような感じでもある。

南港駅から地下鉄で台北駅方面へ数駅いったところに市庁があって、ここのショッピングセンターには三越を始めとする百貨店などが連なり、その奥に台北101がそびえている。この地上101階建ての台北のシンボルは、2004年の竣工時点で世界一の高さを誇っていた。下から見上げる独特のデザインは、まるでブロックを積み上げたようでもある。このビルの側面から四方に花火が上がるらしい。大晦日の新年を祝うイベントの準備が着々と進められている。カウントダウンの模様は地元のテレビで生中継され、私も「紅白」や「ゆく年くる年」を見終わった後に見た。台北の市長夫婦に混じって、日本で活躍する野球選手の顔も見える。

花火はこれでもかこれでもかと音楽に合わせて打ち上げられたが、その模様はホテルからは少し遠くて見えない。だが大抵の台北市内からは良く見えたのではないかと推測される。

新しい台北のシンボルというわけではないが、猫空に向かうロープウェイもまた、新鮮な見どころであった。大晦日の昼下がりに私は台北市郊外にある動物園まで、地上を練るように走るMRTに乗り、そこから猫空行のロープウェイに乗り換えた。大勢の人が列を作り、何十分も待った末、私たちを乗せた大型のゴンドラは、引き寄せられるようにグイッと上昇したかと思うと幾たびも方向を変え、登ったり下ったりを繰り返しながら、とうとう終点のの猫空に到着した。この間、遠くにかすんで見える台北の市内が徐々に遠ざかり、お寺の前を通過して私たちを楽しませた。終着駅いといってもここは山の中腹で、風景は特別な感じはしないのだが、何でもお茶の産地であり、土産物屋などが軒を連ねる。


多くの家族連れやカップルに混じってお茶のソフトクリームなどを頬張ったが、帰りのロープウェイを待つ列は何百メートルも続いており、ちょっとすぐには乗れそうな雰囲気ではない。夕暮れ時、ここは絶好のデートスポットになるさしく、大晦日の夕暮れとなれば、そのタイミングを目がけて大勢の人々が訪れることとなる。帰りのゴンドラを待っていたら何時間かかるかわからない。どうすればいいかと途方に暮れつつあったところに立看板を見つけた。乗り合いタクシーである。わずか75元でふもとの動物園駅へ行ってくれる。嬉しいことにここにはほとんど人は並んでいない。私たち家族はこの乗り合いタクシーに乗り、曲がりくねった山道をあっと言う間に下った。しかも下車はロープウェイの乗り場ではなく、そこから359メートル離れたMRTの駅の前である。このようにして台北最初の大晦日の時間は過ぎていった。

0 件のコメント:

コメントを投稿

ブラームス:ヴァイオリンとチェロのための協奏曲イ短調作品102(Vn: ルノー・カピュソン、Vc: ゴーティエ・カピュソン、チョン・ミュンフン指揮マーラー・ユーゲント管弦楽団)

ブラームスには2つのピアノ協奏曲、1つのヴァイオリン協奏曲のほかに、もう一つ協奏曲がある。それが「ヴァイオリンとチェロのための協奏曲」という曲である。ところがこの曲は作品番号が102であることからもわかるように、これはブラームス晩年の作品であり(54歳)、すでに歴史に残る4つの交...