弦楽ソナタは、1804年頃ロッシーニがわずか12歳の時に作曲したと言われている。全部で6曲あり、そのどれを聞いても明るく瑞々しい。イタリアのモーツァルトと言われたのがよくわかる。この頃はさすがに後年のクレッシェンドを多用した、あのロッシーニ節は聞かれないが、オペラでしか知ることの少ない作曲家の他の種類の音楽を聞くのは楽しい。いかに早書きで、しかもアーリー・リタイヤをしたロッシーニも、最初の歌劇を作曲し始めるには5年も早い。この頃ロッシーニは、母親とともにボローニャに住んでいた。
このような曲を振らせたらネヴィル・マリナーの右に出る者はいない。もともとロッシーニを得意とし、完全な序曲集の録音でも知られるだけにほとんど完璧な演奏で、今もってこの曲の代表的な演奏である(録音は60年代)。従来のモダン楽器による厚みのあるサウンドだが、決して重厚なマトンを羽織ることはなく、生き生きとしてスッキリしている。その微妙な感覚を持ちつつ他の演奏にはまねのできない完成度に達している点が、驚きに値するのはいつものことだ。特にそれが、この曲で成功していると思う。
どの曲をどこから聞いても似たような感じだが、さらさらと流れるヴァイオリンの合間にときおり低弦が機知に富んだ独奏を見せる箇所や、ヴァイオリンがほとばしるような部分がユーモラスで飽きない。最も有名なのは第1番か第3番だそうだ。短いが緩徐楽章の歌うようなメロディーは、この作曲家の後年のオペラに登場するものに似ていたりして、メロディーの宝庫とでも言うべき天才の早熟さを感じさせる。例えば第1番の第2楽章などは、丸でヴェルディの初期のオペラに出てくるような、悲しみに沈む主人公のアリアの導入部のような趣だ。一方、第4番は全体的にしっとりとした感じである。私が気にいっているのは第6番で、その終楽章は「セヴィリャの理髪師」の嵐のシーンの下書きになったのではないか、などと発見して面白い。なお、このCDにはさらにドニゼッティの「弦楽四重奏曲第4番ニ長調(管弦楽版)」、ケルビーニの「ホルンと弦楽のためのエチュード第2番ヘ長調」(ホルン独奏:バリー・タックウェル)、さらにベッリーニの「オーボエ協奏曲変ホ長調」が収められている。いずれも1800年代初頭のイタリア人作曲家による珍しい管弦楽作品である。

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