アメリカ人ピアニスト、レオン・フライシャーもその一人である。彼はベートーヴェンやブラームスの協奏曲で有名なピアニストで、ジョージ・セルとの一連の録音は有名だが、それはかなり前のこと(1960年代)である。病気によって右手の自由を失ったフライシャーは、左手の作品でピアノ演奏を続け、それは2000年代に回復するまで続いた。小澤征爾と左手のための作品のみを取り上げたCDがリリースされたのは、1992年のとだった。
収録されていたのは、もちろんこのラヴェルのほかに、プロコフィエフのピアノ協奏曲第4番、そしてブリテンの「ディヴァージョン」である(https://diaryofjerry.blogspot.com/2012/10/21p.html)。これらの3曲は、いずれもウィトゲンシュタインの依頼による作品である。両手が使えるピアニストも、積極的にこの曲を演奏、録音しているが、左手のための協奏曲のみを取り上げたこのCDは、ユニークな存在である。私も興味深くこのCDを購入して数十年が経つ。
曲はLentoと記された単一楽章から成っているが、実際には3つの部分から構成されている。まず第1部はとても静かに始まり、低音楽器の重奏が陰鬱な感じである。しかしほどなくしてオーケストラの音がクレッシェンド。ここで登場するピアノは、ややメランコリックなカデンツァである。続くオーケストラは全開で、ここにきてやっと明るくなる。
程なくして第2部になると行進曲が開始される。これは軍隊の行進を思い起こさせ、全体のテーマが戦争ということではないかと思えてくる。ただそのリズムの弾け方が、とってもジャジーでお洒落であることが嬉しい。小太鼓などが入り、なんとなく「ボレロ」のさきがけを聞く感じ。
第3部に入ると再び大きく弧を描いてテーマが再現され、曲が終わりに近づいたことを感じる。ピアノはしっとり、キラキラと夜景の如きカデンツァ。そしてコーダの部分はオーケストラによる大団円になったかと思うと、おもむろにリズムが強調され、いつものごとく突如終わる。18分ほどの曲。
小澤征爾はラヴェルを得意としていたが、この曲で見せるリズムの感性は、小澤の真骨頂ともいうべきもので、一糸乱れぬアンサンブルがボストン響の技巧にうまくマッチし、聞きごたえのある演奏に仕上がっている。特にコーダでの、まるで戦車が行進するかのごとき迫力は圧巻である。
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