2024年1月8日月曜日

チャイコフスキー:交響曲第1番ト短調作品13「冬の日の幻想」(クラウディオ・アバド指揮シカゴ交響楽団)

私が育った家には数多くのクラシックのLPレコードが並んでいたが、どういうわけかロシア物が少なかった。チャイコフスキーも例外ではなく、あったのはパウル・ファン・ケンペンが指揮する交響曲第5番のモノラル録音のみ。仕方がないから私はこのレコードばかりを聞いていた。

チャイコフスキーには交響曲が6曲あって、このほかに「マンフレッド交響曲」というのも含めると7曲ということになる。このうち第4番から第6番「悲愴」までの3曲が突出して有名で、録音も多い。一方、第1番から第3番までの曲は、それぞれ「冬の日の幻想」、「小ロシア」、「ポーランド」というタイトルが付いているにもかかわらすあまり演奏される機会がない。私がクラシック音楽を聞き始めたころには、この3曲を演奏したレコードは、カラヤンによるものだけが知られていた。

それでもカラヤンが演奏しているとなるとそれなりに名曲なのではないかと想像した。だがわが国で新たにリリースされる演奏には一向にこれらの曲が含まれることはなく、私にとってこれらの曲は、遠い存在であった。私は優先順位から、チャイコフスキーの作品としてはピアノ協奏曲第1番とヴァイオリン協奏曲、そして「悲愴」、弦楽セレナーデの順に聞き始め、以来長らくチャイコフスキーの作品に触れることはなくなってしまった。交響曲第4番でさえ大学生になってから、三大バレエ曲でもその後、という具合である。だが今ではチャイコフスキーの作品で一番好きなのは、「白鳥の湖」と歌劇「エフゲニー・オネーギン」である。

中学生の頃、私の家には毎週のように友人のO君が遊びに来ていて、彼とはうちにあったLPレコードを順番にかけて楽しんでいたが、一通りの有名曲を聞き終えて私が、他に聞いてみたい曲はないか、と聞いたところ、チャイコフスキーの交響曲第1番だと答えた。私よりもずっと真剣にチャイコフスキーの作品に親しみ、その魅力に開眼していたのかどうかよくわからないのだが、彼は確かにそう言ったのである。

チャイコフスキーの交響曲第1番は、「冬の日の幻想」というタイトルが付けられている。英語ではWinter Dreamと訳されている。作曲者自らが名付けたその副題だけで、あの憂愁を帯びたチャイコフスキーのメロディーが聞こえてくるようではないか。だが私にとってこの曲はずっと謎の曲であり続け、初めて曲を聞いたのはたった数年前のことである。最近では演奏される機会も多くなったこの曲の魅力は、そのタイトル通りの美しさである。まだ若かった頃の作品ではあるが、親しみやすいメロディーが、私をまだ見ぬロシアへと誘ってくれる。

第1楽章と第2楽章はまさに「冬の日」にぴったりの曲で、この文章を書いている正月7日の朝も、関東地方には低く雲が垂れ込め、その隙間から朝日が差し込んでいる。陰影に富んだメロディーをいかに表現しているかが、私がチャイコフスキーの作品を聞く時の指標である。これは緩徐楽章、すなわちゆったりとしたメロディーの独断場と言える。「冬の日の幻想」の第2楽章もまた、この曲最大の聞きどころではないかと思う。だがチャイコフスキーはこの楽章を、「陰気な土地」などと題している。どんよりと曇った湖は、それだけでも陰鬱である。

音楽は45分くらいかかる長い曲で、チャイコフスキーの交響曲はすべて同じくらい長いのだが、形式的にはしっかりとしていて第3楽章は3部形式のスケルツォである。この中間部に置かれているのはワルツで、チャイコフスキーのワルツにも独特の陰を帯びた美しい作品が多いが、ここの音楽もまた愛すべき旋律である。

これに続く第4楽章フィナーレは、最初民謡風のゆっくりとした「チャイコフスキー節」で始まり、最後には大規模でクライマックスとなるのだが、非常に健康的で明るい曲である。全曲を通して何度も聞いているうちに、次第にこの曲が気に入るようになった。近年ではしばしば実演もされているようだから、できればコンサートで聞いてみたいと思っている。

録音された演奏では、この曲の魅力を最初に教えてくれたクラウディオ・アバド指揮シカゴ交響楽団のものが気に入っている。イタリア人がアメリカのオーケストラと演奏した1991年のディスクは、ロシア的な濃厚さに明るさがもたらされて、物憂いメロディーが程よく中和されている。特にアバド流に洗練された第2楽章は秀逸だと思う。

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