2024年1月9日火曜日

第21回東京音楽コンクール優勝者コンサート(2024年1月8日、東京文化会館)

お正月休みが終わったと思ったら、すぐに3連休となった。本来なら趣味の街道歩きか、もしくは近郊へのドライブなどに出かけるところである。天候も良く連日快晴が続いている。東京を訪れるには冬に限る、とどこかの国の旅行ガイドには書かれているそうだ。

しかし今年のお正月は、カレンダーの並びが悪いことに加え、コロナ明けで帰省ラッシュが再来したため、結局どこへも行かず家でじっとしていた。そうしたら大地震や旅客機の事故が発生し、旅行気分ではなくなってしまった。そして3連休も「傘寿記念・桂文枝独演会」と散歩くらいにしか外出していない。あまりも侘しいので、何か音楽会でもと検索したところ、東京文化会館で「東京音楽コンクール優勝者コンサート」というのが開かれることがわかった。コントラバス、ファゴット、ピアノのそれぞれの優勝者をソリストに、3つの協奏曲が演奏される。そのプログラムの面白さもさることながら、オーケストラが下野竜也指揮新日フィルというから悪くない。値段も3000円以下と手ごろである。そこで急に思い立ち、開演3分前に会場に到着、当日券を買って2階席へ。

クラシック音楽のコンサートは、何の口上もなく始まるのが通例である。しかしこの日は出演者の紹介のため、元テレビ朝日のアナウンサー、朝岡聡が登場した。彼は手際よくこのコンクールのあらまし、それから登場する演奏者のプロフィールなどを紹介、チューニングも終えて最初の曲、ロータのディヴェルティメント・コンチェルタンテが始まった。ロータは映画音楽で有名なイタリアの作曲家で、近年は彼のクラシック音楽作品がよく演奏されるが、この曲は大変珍しい。なぜならこの曲は、コントラバスの協奏曲の趣があるからである。

ソリストは本コンクール弦楽部門の優勝者である水野斗希という若干二十歳の若者で、すらっとした体格ながら大きな楽器を携えて登場、普段あまり聞くことのできないコントラバスの独奏を楽しむことができた。2023年に始まったこのコンクールは、まだ歴史が浅いが、これは彼が生まれた年でもあり、そして本日成人式を迎えるとのことである。ヴァイオリンやチェロなど、奏者の多い弦楽部門でコントラバスの奏者が優勝するのは初めてだそうだ。

冒頭、下野の指揮するオーケストラが大変心地よい響きで驚かされる。下野の指揮というのは、派手ではないが安定しており、アンサンブルの見事さはなかなかのものだと感心している。東京文化会館のデッドな響きにも巧く対応し、バランスの良さが際立つ。そこの重厚なコントラバスの響きが重なる。

結構長い曲で全4楽章はあっただろうか。軽やかでイタリアの光を感じる作品に、しばし心を奪われる。重音やフレジオレットといった、オーケストラ・パートとしてはまず演奏されることのない技巧も駆使した曲は、一聴の価値があると思ったが、なかなかこういう曲を二度と聞くこともないだろうとも思った。今日もっとも関心したのは、この曲のこの演奏だったかもしれない。

続いては木管部門の覇者である保崎佑という方が登場。彼は音楽学の博士課程も修めた経歴の持ち主で、年齢は先の水野より10歳年上である。ファゴットもまたオーケストラでは最低音を担う楽器で、独奏を務める作品は少ない。有名なモーツァルトの作品もあるが短い曲。それに比べると今回演奏されたロッシーニの協奏曲は、歌うように流れるロッシーニの爽やかな音楽が魅力的な作品である。

ところがこの曲は、出版されたのが2000年代に入ってからだと朝岡が説明する。自筆譜が存在しておらず、正確にはロッシーニの作品であるかどうかはわからないそうだ。まあそれでもロッシーニだと思って聞けば、そのように信じることができる。リードを曲の途中で何度も変えながら、安定感のある演奏を披露して拍手を誘っていた。彼は観客の投票によって決まる「聴衆賞」というのも受賞しているそうだ。

休憩後はピアノ部門の優勝者である佐川和冴という25歳のピアニストが登場、選んだ曲が何とベートーヴェンの第2番のコンチェルトだった。この曲は第1番に先立って作曲されたことは有名で、度重なる改訂を経てベートーヴェンらしさも十分に感じられる素敵な作品だが、演奏される機会は最も少ない。だが彼はこの曲がもっとも好きだと話す。そしてベートーヴェンが自らこの曲を初演したのは、丁度彼と同じ25歳だったというから思い入れが強い。そして彼は大きく体をゆすりながら、まるでモーツァルトのように朗らかに、この曲を披露した。深々とした第2楽章は特に素晴らしく、オーケストラも献身的だった。どこか女性ピアニストを聞いている感じだった。

クラシック音楽に造詣の深いベテランの司会によって、この日のコンサートは通常以上に引き締まって楽しめることになったのは間違いない。そして最後にソリスト3名が再び登場、会場の大きな拍手を受けて、まだ初々しい表情が素敵である。2024年の最初のコンサートでは、このような新鮮な気持ちを感じることとなった。少し寒いがそれでも例年よりは温かい年明けの上野公園も、17時を過ぎればすっかり日が暮れて、大勢の人々が家路を急ぐ。東京文化会館と上野駅は50メートルくらいしか離れていないので、歩いても1分とかからない。その短い距離を爽やかな新春の風が、心地よく吹き抜けていった。

0 件のコメント:

コメントを投稿

日本フィルハーモニー交響楽団第761回定期演奏会(2024年6月7日サントリーホール、大植英次指揮)

日フィルの定期会員になった今年のプログラムは、いくつか「目玉の」コンサートがあった。この761回目の定期演奏会もそのひとつで、指揮は秋山和慶となっていた。ところが事前に到着したメールを見てびっくり。指揮が大植英次となってるではないか!私の間違いだったかも知れない、といろいろ検索す...