これら3つのバレエ音楽から、組曲や抜粋という形で曲を選んで演奏したディスクのなかから、定評のあるものを取り上げておこうと思う。ただ、オペラでもそうなのだが、一度でも全曲盤に親しんでしまうと、抜粋盤はいかにもつまらないものに思えてくる。好きな曲が取り上げられていなかったり、曲順が違っていたりする。何よりも、ストーリーの自然な展開を無視して、次々とメロディーがつなぎ合わされるため、味わいに乏しく感じられるのだ。しかし、全曲を通して聴くには時間もかかるし、何より、全曲を聴く機会はあまりない。抜粋盤であれば、演奏に接する機会も多く、ディスクの数も豊富である。これは紛れもない事実なのだ。
ここで取り上げる、ロシアの著名なチェリスト、ムスティスラフ・ロストロポーヴィチが指揮したディスクも、そうした抜粋盤の一つである。この演奏はほれぼれするほど素晴らしいが、ロストロポーヴィチによる全曲盤は存在しない。したがって、彼の指揮によるチャイコフスキーのバレエ音楽を聴きたい場合は、この抜粋盤を聴くしかないのである。これはカラヤンについても同じである。
指揮者としてのロストロポーヴィチがどの程度のものかについては、議論の余地があるのだが、彼はロシア人としての矜持にあふれ、その音楽への愛情はことのほか深いものが感じられる。ロマンチックで、ややテンポが揺れ動く一方、野太い旋律を豪快に奏でるところは、チェロを弾くときと同様である。その愛国的な情熱に、ベルリン・フィルは誠意をもって応えている。これらの音楽から一貫して聞こえてくるのは、チャイコフスキーの音楽を愛してやまないロストロポーヴィチの、祖国に対する深い愛着である。
ついでに、チャイコフスキーのバレエ音楽を得意とし、3作品それぞれについて全曲盤や抜粋盤を残している有名指揮者をまとめておこうと思う(ステレオ録音のみ)。いずれも素晴らしい演奏なので、時間があるときに聴いてみたいと思っている。なお、このリストは私的なメモとして作成したため、漏れがあることをお断りしておく。
- 3大バレエ音楽がすべてステレオ全曲盤としてリリースされている主な指揮者
- エルネスト・アンセルメ(スイス・ロマンド管弦楽団)
- アンドレ・プレヴィン(ロンドン交響楽団)
- アンタル・ドラティ(ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団、ロンドン交響楽団)
- ワレリー・ゲルギエフ(マリインスキー歌劇場管弦楽団)
- リチャード・ボニング(ナショナル・フィルハーモニー管弦楽団)
- レナード・スラットキン(セントルイス交響楽団)
- ネーメ・ヤルヴィ(ベルゲン・フィルハーモニー管弦楽団)
- すべて組曲(または抜粋)として録音・リリースされている主な指揮者
- ヘルベルト・フォン・カラヤン(ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団)
- ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ(ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団)
- ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー(読売日本交響楽団)
- 「白鳥の湖」、「くるみ割り人形」のみ全曲盤が存在する主な指揮者
- 小澤征爾(ボストン交響楽団)
- シャルル・デュトワ(モントリオール交響楽団)
- 「白鳥の湖」のみ全曲盤がリリースされている指揮者
- ウォルフガング・サヴァリッシュ(フィラデルフィア管弦楽団)
- 「眠れる森の美女」のみ全曲盤がリリースされている指揮者
- ミハイル・プレトニョフ(ロシア・ナショナル管弦楽団)
バレエ音楽「白鳥の湖」より
1.情景(第2幕)
2.ワルツ(第1幕)
3.4羽の白鳥の踊り(第2幕)
4.パ・ダクシオン(第2幕)
5.ハンガリーの踊り(チャルダーシュ)(第3幕)
6.終曲(第4幕)
バレエ音楽「眠りの森の美女」より
7.序奏とリラの精(プロローグ)
8.アダージョ
9.長ぐつをはいた猫と白い猫(第3幕)
10.パノラマ(第2幕)
11.ワルツ(第1幕)
バレエ組曲「くるみ割り人形」作品71a
12.小序曲
13.行進曲
14.こんぺい糖の踊り
15.ロシアの踊り(トレパーク)
16.アラビアの踊り
17.中国の踊り
18.あし笛の踊り
19.花のワルツ

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