
この曲はニ長調で書かれ全体的にとても充実した印象を与える。それは「パリ交響曲」中もっとも優れた曲だと言われている。メリハリが効いている上に、時折ずっしり堂々とした響きがあるかと思えば、随所にハイドンならではの優雅さと軽やかさも感じられ、そのバランスが好ましい。私見ながらその後のザロモン・セットへと至る晩年の、錚々たる作品群のまさに最初の作品ではないか。
例えば第3楽章のメヌエットがこれほど印象的な曲は、珍しい。その充実ぶりはトリオの部分になると一層際立ち、一つ一つの音符が意味ありげに響く。第1楽章の何かが始まるような荘重な序奏が終わると、明瞭快活な主題かと思いきや、幾分不安定な、やや影の感じる主題が走りだす。だがそれもつかの間で、すぐさま「静かな熱狂」が感じられるあたりは、ハイドンを聞く楽しみの一つの典型であるとも思える。走り出したくなるかと思えば、転調によって景色の色合いが変わる。
第2楽章の長いメロディーも、飽きることはない。優雅なステップと時折フォルテの小節も出現して、スカッとする。総じてこの曲は、とてもいい曲で、隠れた名曲であるとも言えるのではないか。
サイモン・ラトルはバーミンガム時代にハイドンのCDを2枚リリースしているが、その選曲は極めてユニークである。それらはホーボーケン番号の小さい順に、第22番、第60番、第70番、第86番、第90番、それに第102番である。この他の作品の演奏はないが、ベルリン時代になって第88番から第92番までの「隙間」の作品を取り上げ、これも大変素晴らしい。どういう理由でこのような選曲となったがわからないが、その中に「パリ交響曲」から唯一第86番が収録されていることは見逃せない。
サイモン・ラトルの演奏はモダン系楽器を使いながらも古楽奏法の影響を受けたものとなっている。その音色もさることながら、スポーティーで弾むようなリズム感がこの演奏の魅力である。すなわち静かな部分では、体をゆすりたくなり、早い部分では走り出したくなる。乗って聞いていると、小さな音符が次第に大きな音に変わっていくようなシーンに何度も出くわし、この曲がこういう曲だったかのか、と思う時がある。つまり大変ユニークな演奏と思う。
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