古楽器による演奏のおかげで、それまで平凡に思われていた曲に新たな息吹を感じることが多い中にあって、この第85番変ロ長調もそのひとつだろうと思った。アーノンクールによる霊感に満ちた「パリ交響曲」を聞いた後では、よりその違いが鮮明だ。そして私は、またひとつの期待を裏切らない演奏家、ブルーノ・ヴァイルが組織したカナダの演奏団体ターフェルムジークによって、生き生きとした曲に蘇ったこの曲を聞くことができた。
静かな序奏で始まる第1楽章は、よくあるハイドンの出だしだが、フレッシュで心地よい疾走感の主題が始まると、刺激的で幾分早めな速度が何とも心地よい。ハイドンの典型的な楽しさが、ここにも十分表れている。
第2楽章の静かにステップを踏む演奏も、最初はただ長く、眠い曲だと思っていたが、何度目かに開眼する。やはりアーノンクールの注意深く思慮に富んだ演奏がそのきっかけだった。この曲はマリー・アントワネットが好んだため「王妃」というニックネームで呼ばれるという逸話が、嘘ではないように思われてくる(いい加減なものである)。そしてこの曲が、当時流行していた歌のメロディーだと知った。
第2楽章の後半で、旋律にフルートが絡む。丸でお花畑の蝶々のように、上がったり下がったり、予測できないように見えて一定のリズムがある。何とも楽しいのだ。
第3楽章のメヌエットを経てプレストの最終楽章に入ると、一気に5分もかからず終わる。コンパクトで楽しい曲だが、もっとあとの曲に比べるとインパクトが少ない。だから演奏される機会も少ないし、私も今まで聞いたことがなかった。
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