弦楽のための交響曲が、メンデルスゾーンの音楽的ないわば成熟の過程を記録した作品となったのに対して、この良く知られた弦楽八重奏曲は、彼の音楽的才能が早くも完成の域に達し、自らの音楽に対する確固たる自信を裏付けるような作品であると言える。我々が普通に聞くメンデルスゾーンの音楽の、最初の本格的な作品はこの曲ではないかと思われる。
二つの弦楽四重奏団の共同作業として、しばいばこの曲は演奏され、録音もされてきた。私が高校生だった頃、家には確かパノハとスメタナの両弦楽四重奏団が一緒に演奏したレコードがあったように記憶している。そしてその作品の燃えるような躍動感に満ちた第1楽章を聞いて、まさか同い年の16歳の少年による作品であるとは信じられず、非常に驚いたものだ。
私がコレクションに加た一枚は、それから10年以上が経過した1992年にニューヨークで録音されたもので、オリジナル楽器の名手アンナー・ビルスマを中心に、ラルキブデッリとスミソニアン・チェンバー・プレイヤーズの演奏。ワシントン・スミソニアン博物館に所蔵されているストラスヴァリウスを用いて演奏されたという触れ込みのソニーのCDである。録音は1992年。
ここで聞くメンデルスゾーンはやはり刺激的である。録音もいいからだろうが、昔聞いたLPの演奏よりも何倍も新鮮に聞こえるのが不思議だ。LPレコードはよほどいい再生装置で聞かないと、いい音に聞こえなかったのかも知れない。
第1楽章「程よく快活に、だが火のように」、第2楽章「ぼちぼちと」、第3楽章「スケルツォ、快速に最も軽やかに」、第4楽章「早く」といった指定がされている。このうち第3楽章のスケルツォは特に有名で、単独にオーケストラで演奏されることもある。例えば、トスカニーニのCDにこの楽章のみのトラックがあったように思う。あるいはHooked on Classicsの中のHooked on Mendelssohmにも登場する。
日増しに暑くなっていく梅雨の中休み。真昼間だというのに窓を開け放ち、垣間見える東京湾から吹く生温かい風に打たれながら、この曲を大音量で聞いた。メンデルスゾーンほど夏に良く合う作曲家はいない、などとのぼせながら思ってみたりする。
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