ベートーヴェンに心酔していたワーグナーは、結果的にはベートーヴェンがむしろ不得意としていたオペラの分野で新境地を開いたが、そのワーグナーも若い頃に交響曲を作曲していることは興味深い。交響曲ハ長調と未完に終わった交響曲ホ長調である。 このうちハ長調の交響曲は1832年実に19歳の時の作品、未完成のホ長調は21歳の時の作品である。
ドイツのFM放送などを聞いているとこれらの交響曲は割合耳にすることが多い。歌劇「リエンツィ」がドレスデンで成功を収めるのが27歳の時だから、これらの作品はワーグナーのあの毒がまだ少ない。従ってはじめて聞いた時は、一体誰の作品なのだろうと思った。
交響曲ハ長調は、それでも40分ほどの長大な曲である。どうしても作品が大規模化するのはワーグナーの場合仕方ないのだろうか。雰囲気はロマン派前期のものだがシューベルトとはやや違う。そう言えばハ長調という調性は、ベートーヴェンの交響曲第1番と同じだ。ビゼーにしてもウェーバーにしても、またシューベルトもメンデルスゾーンも、若い頃の作品は瑞々しくて私は好きである。
序奏を伴う第1楽章から骨格がはっきりしていている。比較的長く重い序奏が終わると高らかに流れる主題は健康的で、来ていて心地よい。第2楽章のロマンチックな調べも味わいがある。第3楽章はスケルツォで、やはりベートーヴェンを意識したものだろう。第4楽章になるとどことなくシューベルトかウェーバーのような雰囲気で、平凡と言ってしまうには印象的で、何かよくわからないのだが聞き終わった充足感もないわけではない何かがここにある。
ネーメ・ヤルヴィはエストニア出身の指揮者でパーヴォの父である。彼はスコットランドのオーケストラを指揮してChandosレーベルに数多くの管弦楽作品を録音している。これもその一枚だが、他にもスッペやサン=サーンスといった作曲家の序曲集などをリリースして好評だ。ワーグナーの珍しい作品を集めたこのCDも、2つの交響曲を中心にめったに録音されない作品をSACDのフォーマットで収録している。「リエンツィ」序曲のテンポを時に抑えた表現など、若干ケレン見が目立つのも息子と良く似ている。
【収録曲】
・交響曲ハ長調
・交響曲ホ長調(フェリックス・モットル編)
・感謝の行進曲
・歌劇「リエンツィ」序曲
・皇帝行進曲
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