2016年9月27日火曜日

行進曲集(フレデリック・フェネル指揮イーストマン管楽アンサンブル)

息子とのキャッチボールで指を怪我し落ち込む毎日に、子供の頃に親しんだ行進曲集のCDをいくつか聞いてみることにした。最初の一枚は古い1960年代の録音から、フレデリック・フェネル指揮イーストマン管楽アンサンブルのもの。マーキュリーのアナログ録音をCDリマスターした一枚だが、実際に録音の古さは隠せない。LP2枚分の曲がずっしりと収められている。

まだクラシックに親しむ前、私は行進曲が好きだった。おそらくテレビの野球中継で流れるマーチが好きだったのだろう。今ではスポーツ中継のテーマ音楽は、様々な歌手の歌が使われているが、かつてはオリンピック中継も含め、スポーツ中継といえば放送局ごとに音楽が決まっており、プロ野球であれプロレスであれ、同じ行進曲が使われていた。それらのテーマ曲が何という曲なのかは、放送局に手紙を書かなくてはわからないし、そんなことをしてもそれが収録されたレコードを探すというのは大変なことだった。

学校でタイケ作曲の「旧友」という行進曲を鑑賞したのはその頃だった。この曲はどこかの放送局のスポーツ・テーマ音楽だと級友の誰かが言った。そして私のクラスではこの曲が流れると、みんな教室の後方で行進の真似をして遊んでいた。思えば無邪気な小学生時代である。私は各放送局のテーマ音楽に使われる行進曲の名前が知りたくなった。だがそれを知るのはもっと後になってからだ。

いろいろな行進曲が聞いてみたいと思っていたので、私は父にそういう音楽の収録されたLPレコードを所望した。だが校外の小さなレコード屋には、申し訳程度にクラシック売り場があるだけで、その続きのセクションにも軍歌や民謡のレコードがあるだけだった。西城秀樹などのアイドル歌手や都はるみのような演歌歌手のLPならいくらでも置いてあるのに。仕方なく父は、アーサー・フィードラー指揮のよるボストン・ポップス管弦楽団の2枚組LPレコードを買ってくれた。これが私のクラシック音楽との出会いとなった。

スッペの喜歌劇「軽騎兵」序曲が収録されていた、というのがこのLPを買ってくれた理由である。この曲も学校の音楽鑑賞に使われていたし、その他のポピュラーな名曲は私を魅了した。けれども行進曲については一向にわからない。そんなある日、NHK-FM午後のクラシック番組で、行進曲特集が放送された。

私はトランジスタラジオにテープレコーダーを接続し、SONYの安いカセットテープに、可能な限りの曲を録音した。その時の曲目は、これらを紹介したアナウンサーの声とともに鮮明に覚えている。その演奏こそが、このフェネル指揮の演奏の数々だった。スーザという作曲家の存在もこの時知った。アメリカの有名な行進曲の多くはスーザにいおるものである。私は毎日カセットを聞きながら、「ワシントン・ポスト」「雷神」「エル・カピタン」「キング・コットン」「海を越える握手」(この曲は「海を越えた握手」という訳もあるが、この時のNHKのアナウンサーは「海を越える握手」と言った)「星条旗よ永遠なれ」などを覚えていった。

この時の放送では、スーザの曲に加え「ボギー大佐」「アメリカン・パトロール」などの吹奏楽の名曲が合わせて紹介された。「ボギー大佐」は「クワイ河マーチ」としても有名であり、また「アメリカン・パトロール」は弟が幼稚園で合奏していたのを覚えている。最後にはVOA(「アメリカの声」放送局)でお馴染みの「ヤンキー・ドゥードゥル」の一部が聞こえてくる。

さてフェネルのこのCDを私は二十代になって購入したのだが、フェネルと言えば管弦楽の父ともいえる存在である。彼の率いるイーストマン管楽アンサンブルは、イーストマン・コダック社のあるニューヨーク州ロチェスターにあるイーストマン音楽院所属のブラスバンドである。アメリカの文化が世界を席巻したベトナム戦争までの時代こそ、アメリカの黄金時代ではないかと思う。このキビキビとした演奏には、その強かったアメリカの勢いを感じる。フェネルはその後我が国でも長く活躍し、ブラス好きには有名な音楽家だが、私はこの古い時代の演奏を一枚だけ持っている。


【収録曲】
1.スーザ:「海を越える握手」    
2.ガンヌ:「勝利の父」    
3.サン・ミゲル:「ゴールデン・イアー」    
4.タイケ:「旧友」    
5.プロコフィエフ:行進曲作品88    
6.ハンセン:「ヴァルドレス・マーチ」    
7.デレ・セーゼ:「イングレジナ」
8.コーツ:「ナイツブリッジ・マーチ」    
9.スーザ:「合衆国野戦砲兵隊」
10.スーザ:「雷神」
11.スーザ:「ワシントン・ポスト」
12.スーザ:「キング・コットン」
13.スーザ:「エル・カピタン」
14.スーザ:「星条旗よ永遠なれ」
15.ミーチャム:「アメリカン・パトロール」
16.ゴールドマン:「オン・ザ・モール」
17.マッコイ:「ライツ・アウト」
18.キング:「バーナムとベイリー」
19.アルフォード:「ボギー大佐」
20.クローア:「ビルボード」

0 件のコメント:

コメントを投稿

ブルックナー:交響曲第7番ホ長調(クリスティアン・ティーレマン指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団[ハース版])

ブルックナーの交響曲第7番は、第4番「ロマンチック」の次に親しみやすい曲だと言われる。これはたしかにそう思うところがあって、私も第4番の次に親しんだのが第7番だった。その理由には2つあるように思う。ひとつはブルックナー自身が「ワーグナーへの葬送音楽」と語った第2楽章の素晴らしさで...