2016年9月28日水曜日

行進曲集(レナード・バーンスタイン指揮ニューヨーク・フィルハーモニック)

小学生の頃、行進曲を集めたレコードが聞きたくて近所のレコード屋に出かけたが、なかなかいいものはなかった、と述べた。暫くしてCBSソニーからレナード・バーンスタインが指揮する行進曲集が発売されていることがわかった。鼓笛隊のイラストがジャケットのこのLPには、スーザを始めとするアメリカの有名な曲を中心に10曲あまり収められていた。私はあのバーンスタインが、しかも天下のニューヨーク・フィルを指揮して録音した何と贅沢なレコードだろうと思った。

だがこのLPは、収録時間が短いにも関わらず店頭にはなかった。仕方なく私はカセット売り場を覗いてみた。するとそこにはフェリクロームタイプの高級テープに録音されたものが売られているではないか!ジャケットに相当するカセットテープのケースにも同じイラストが描かれていたように思う。私はこのカセットが欲しくなった。でも驚くべきことにその値段は異常に高く、3500円だったかと思う。つまり小学生の私には手が出ない。仕方がないので私はあきらめ、以来、この演奏に触れるまでにはさらに十数年の歳月を要することとなった。

CDの時代になって収録時間が長くなり、LPでリリースされていた録音は古いものなら関連性の高い2枚を一枚に収めたCDが安く売りだされることとなった。当初はLPそのままの収録時間を、大したリマスターもせずに売り出されたものだが、それは次第に安値を争う競争にさらされ、そして輸入盤の普及も手伝って、CDの安売りが常態化していった。

バーンスタインのニューヨーク時代の録音も次々とCD化されていったが、その中で私の欲しかった行進曲集は、別に録音されたクラシカルな行進曲集とカップリングされ、いまでは全部で20曲収録されたCDとして発売されている。もっともこんな古い録音は誰も買わないから、価格はさらに安くなり、中古で買えば数百円にまで下落した。かつて3500円した10曲入りのスーザ行進曲集が、いまではほとんどタダで(図書館等に行けば)聞くことが出来る。

バーンスタインはこの一連の行進曲集を、大いに楽しそうに指揮しているように見える。驚くのはそのスピードで、これは歩くには少し早すぎる。そして特徴的なのは、弦楽器も加わるオーケストラ向けに、凝ったアレンジがなされていることだ。つまりこの演奏は、実用的なものではなく鑑賞用ということである。もっともスーザの行進曲をそう何回も、何曲も続けて聞くことはないし、演奏会で取り上げられることもない(アンコールなら私は、ズビン・メータの指揮するニューヨーク・フィルハーモニックで聞いたことがある)。

録音は60年代後半で、いまとなては古くなったが、その生き生きとした演奏はバーンスタインのサービス精神とスポーティな棒さばきは聞くものを無条件に浮き立たせる。後半のクラシカル・マーチの数々は、これが聞きたかったという曲のオン・パレードで、「酋長の行列」などは私は大好きだが、スーザの各曲こそこの組み合わせの真骨頂である。軍隊や愛国心の香りはあまりせず、純粋に音楽的であり、人が持っている活動への感覚を本能的に刺激する。特に「星条旗よ永遠なれ」は文句なく素晴らしい。


【収録曲】
1. スーザ:「ワシントン・ポスト」
2. スーザ:「忠誠」
3. スーザ:「雷神」
4. J.F.ワーグナー:「双頭の鷲の旗の下に」
5. スーザ:「海を越える握手」
6. スーザ:「星条旗よ永遠なれ」
7. J.シュトラウス一世:「ラデツキー行進曲」
8. ステッフ:「リパブリック讃歌」
9. ツィンマーマン:「錨を上げて」
10. アルフォード:「ボギー大佐」
11. ド・リール:「ラ・マルセイエーズ」
12. バーグレイ:「国民の象徴」
13. ビゼー:「カルメン組曲第1番」より「闘牛士の行進」
14. エルガー:「威風堂々」 第1番
15. メンデルスゾーン:劇音楽「アタリー」より「僧侶の戦争行進曲」
16. ヴェルディ:歌劇「アイーダ」より大行進曲
17. ワーグナー:歌劇「タンホイザー」より大行進曲
18. マイアベーア:歌劇「預言者」より戴冠式行進曲
19. イッポリトフ=イヴァーノフ:組曲「コーカサスの風景」より「酋長の行列」
20. ベルリオーズ」:劇的物語「ファウストの劫罰」より「ラコッツィ行進曲」

0 件のコメント:

コメントを投稿

ブルックナー:交響曲第7番ホ長調(クリスティアン・ティーレマン指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団[ハース版])

ブルックナーの交響曲第7番は、第4番「ロマンチック」の次に親しみやすい曲だと言われる。これはたしかにそう思うところがあって、私も第4番の次に親しんだのが第7番だった。その理由には2つあるように思う。ひとつはブルックナー自身が「ワーグナーへの葬送音楽」と語った第2楽章の素晴らしさで...