2016年9月29日木曜日

ドイツ行進曲集(ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィルハーモニー管楽アンサンブル)

バーンスタインが豪華絢爛なアメリカを中心としたマーチ集を録音していたと思ったら、カラヤンもまた行進曲集をリリースしていたことを知った。こちらは天下のベルリン・フィル管楽器セクションを用いたもので、曲もドイツの行進曲に限定されている。それぞれの曲をあくまで純音楽的に響かせようというので、古くから親しまれているものを中心にしたアルバム。

ベートーヴェンの「ヨルク行進曲」で始まるブラスの響きに耳を傾けながら、カラヤンはまた真面目にこのような音楽を演奏しているのだなあ、と思う。知っている曲は少ないが、「双頭の鷲の旗のもとに」とか「旧友」のような定番曲も収録されている。そして「ウィーンはウィーン」に来て、とうとうテレビ局のスポーツテーマ音楽を踏破した。この曲は朝日系の野球中継等で使われてきた曲である。大阪ではABCラジオのナイトゲーム中継でもおなじみの、あの曲である。それをカラヤンが演奏している。

他の放送局はどうしたのか、と思うかも知れない。他の放送曲のテーマ音楽は主に日本の行進曲が使われている。それにつては次回に触れる。

それにしてもこのCD、聞いたことのある曲は少ないし、同じような曲がずっと続くにもかかわらず、聞いているうちに管楽器だけのアンサンブルが次第に耳に馴染んできて、とても幸せな気分になるのは不思議である。個人的な感想なのだが、スーザの行進曲だとこうはいかず、飽きるのに。

ドイツの行進曲は2拍目にアクセントがある。その結果少し重い感じがする。重い靴を履いた行進である。また第1の主題が繰り返されたあとに、比較的メロディアスな中間部が置かれているのも特徴である。このA-B-Aの形式が我が国の明治以降の行進曲にも適用されている。

2拍目のアクセントは、小学校の時に習った「左ー右」の順序で言えば、右足の部分である。マーチが2拍子で作られていることを考えれば、「強ー弱」のうちの弱の方。すなわち「弱音ー2拍目ー右足」ということになる。果たしてそうであろうか?

この疑問に答えてくれたのが、「西洋音楽論」(森本恭正著、光文社新書)である。この瞠目すべき音楽論はヨーロッパで活躍する指揮者によって書かれている。それによれば、欧米では実際には上記と若干異なり、あくまで2拍目が強い、というのである!これをアップビートという。おおよそロックであれクラシックであれ、西洋の音楽はアップビートである、というのだ。すなわち「強音ー2拍目ー右足」。多くの人が利き手である側、すなわち右足で強く蹴りだすのは生理的な現象で、日本人はそれを誤解して西洋音楽を導入した。したがって現在でも、J-POPであれクラシックであれ、 日本人の演奏というのは聞いて直ぐにわかる、と筆者は言う。

なるほど、と思った。音楽をするときのコツ、それはアップビートで演奏することである。このような指摘は、これまで他にはない。どうしてなのはわからない(わが国ではアップビートのことをアフタービートと呼ぶらしい)。

カラヤンの行進曲集を楽しく聞きながら、行進という人間の持つ基本動作に基づく音楽としての、一定の規律と厳正なるものを感じ、そして何かきちっとしてければいかないような気持になった。3拍子が踊りから派生しているのと同様に、大勢の人が合わせて歩くさまは、お祭りのような「ハレ」の状態であり、華やいだフェスティバルで聞かれるファンファーレや行進曲は、そういった共同体生活の中での特別な意識を表している。私が子供の頃にスポーツ中継を通じ行進曲が好きになったのも、そのような生活上のわくわくするような感覚によるものだったと思う。

ついでながら、私の好きな曲は、前述の「ウィーンはウィーン」に加え、「チロルの木こりの誇り」、「旧友」、それにヨハン・シュトラウスの作曲した喜歌劇「ジプシー男爵」から「入場行進曲」などである。最後の曲「ニーベルンゲン行進曲」はワーグナーの楽劇のメロディーがちりばめられている。カラヤンがこんな曲を入れているのは、やはりドイツを感じるというか、何というか。


【収録曲】
1.ヨルク行進曲(ベートーヴェン/シャーデ編)
2.トルガウアー行進曲(フリードリヒ大王)
3.我がオーストリア(スッペ/プライス/ドブリンガー編)
4.はためく軍旗の下に(リンデマン/シュミット編)
5.大公騎兵隊行進曲(モルトケ伯爵)
6.双頭の鷲の旗の下に(J.F.ワーグナー/モスハイマー編)
7.我ら皇帝親衛隊(ミュールベルガー/デボロ/タンツァー編)
8.フローレンス行進曲(フチーク)
9.ケーニヒスグレッツ行進曲(ピーフケ)
10.連隊の子供たち(フチーク/ブラーハ編)
11.ウィーンはウィーン(シュランメル/シュミット=ペテルセン編)
12.十字軍騎士ファンファーレ(ヘンリオン/メネケ編)
13.ペテルブルク行進曲(作曲者不詳)
14.フェールベリン騎兵隊行進曲(ヘンリオン/メネケ編)
15.ホッホ・ウント・ドイッチュマイスター行進曲(エアトル)
16.ヴィンドボナ行進曲(コムツァーク/マーダー編)
17.ホーエンフリートベルク行進曲(フリードリヒ大王)
18.アルブレヒト大公行進曲(コムツァーク/ヴィリンガー編)
19.チロルの木こりの誇り(J.F.ワーグナー/タンツァー編)
20.プロイセンの栄光(ピーフケ)
21.ケルンテンのリーダー行進曲(ザイフェルト)
22.ボスニア人たち(ヴァグネス)
23.フリードリヒ近衛連隊行進曲(ラーデック)
24.旧友(タイケ)
25.ジプシー男爵』から入場行進曲(J.シュトラウス2世)
26.ニーベルンゲン行進曲(ゾンターク)

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