毎日心地よい陽気の続く今年の大型連休は、大きな外出もなくのんびりしている。朝晩に近くを散歩することが多い私は、携帯音楽プレーヤーにいくつかの演奏をコピーしてある。今日はどういうわけか久しぶりに、ドヴォルジャークの「スラヴ舞曲」を聞きたくなった。この曲は、全16曲がすべて親しみやすい名曲で、当然のことながら人気も高い。演奏会では、アンコールなどでチェコ系の指揮者がよく取り上げている。通して聞くことは滅多にないが、CDで買えば、基本的に全曲が1枚のディスクに納まる形で聞くことができる。
私が最初にこの曲に触れたのは、ジョージ・セルが指揮するクリーヴランド管弦楽団のLPレコードに、そのアンコールのように入れられていた第10番と第3番からである。このLPレコードは大阪万博の年、大阪国際フェスティヴァルのために来日したこのコンビの1970年の公演と同じ、ドヴォルジャークの第8交響曲と一緒に収録されてもので、EMIからリリースされたこともあって、いつになく奥行きと残響のある、しっとりとした演奏であった。
セルはこの来日の直後に急逝し、そのことがこのレコードの評価を一段と確固たるものにした。公演を聞いた評論家が、セルという指揮者を再評価し始めたのもこの頃である。私はこの年、大阪万博の会場近くに住んでいたが、まだ小さな子供であった。だからこのLPに出会うのは、さらに10年後のことである。ここで初めて第8交響曲というのを聞いたし、スラヴ舞曲の忘れ得ぬ名演を何度も繰り返し聞いたものだ。この他にもセルのスラヴ舞曲集は売られていたが、上記の理由から特にこの2曲については、すべての演奏中、最も素晴らしいものの一つであると、今でも思う。
スラヴ舞曲をすべて聞いたみたいと思っていた頃、丁度NHK交響楽団の演奏会がFMで中継され、私はそれをエアチェックした。カセットに収録した演奏は、チェコの指揮者、ヴァーツラフ・ノイマンが客演した際のもので、後年CDでも発売された名演である。私は録音の悪いテープを何度も聞きながら、ほとんどの曲のメロディーを覚えてしまった。中学生の頃である。
CDとして全曲盤を買うことにしたのは、それからさらに10年以上が経過した頃である。ドイツ・グラモフォンのガレリア・シリーズで、クーベリックの指揮する名盤が安く手に入ることがわかった。クーベリックのスラヴ舞曲を収録したCDは数多いが、その中でも決定的とされるバイエルン放送交響楽団を指揮したものである。録音は1974年。
さて、スラヴとは主に東ヨーロッパからロシアにかけて住む民族の総称で、その音楽は国民学派の時代、西洋音楽に取り込まれた。丁度、ブラームスのハンガリー舞曲が流行した頃、ドヴォルジャークは同様な舞曲集を作曲する。最初はピアノ連弾曲であることも、全8曲から成る2つの作品というのも同じだ。ハンガリーはマジャール人の国で、いわばアジア系である。それに対し、チェコの民族音楽をふんだんに取り入れたスラヴ舞曲は、少し異なる味わいを持つ。いずれもオーケストラ曲に編曲され、今ではその演奏の方が主流となっている。
速い部分と遅い部分が交互に組み合わせられているのも共通だが、速い部分ではテンポの揺れがハンガリー舞曲ほど急ではないく、祝祭的である。一方遅い部分では独特の憂愁を帯びたメロディーが、時に聞き手の心に懐かしく響く。私はスラヴ舞曲の方を聞くことの方が多い。躍動感と牧歌の組合せは、管弦楽の聞かせどころ満載で、オーケストラを聞く喜びを味わうことができる。
曲が素敵なので、基本的にどの演奏で聞いても楽しめる。従って時間が許せば、可能な限りの演奏を聞いてみたいと思う。クーベリック盤は、ドヴォルジャーク第1人者としての風格が感じられる演奏で、オーケストラのバランスといい、テンポの素晴らしさと言い、何も言うことはない。この演奏を聞いていると、どこか東欧の村でお祭りに出くわしたかのような気持ちがしてくる。
一方、クーベリックの演奏を聞いてからさらに10年後、私は素晴らしい録音のドホナーニによるデッカ盤を購入した。この演奏はセルが指揮していたクリーヴランド管弦楽団を振ったもので、クーベリック盤にない魅力がある。ドライブに持っていくならドホナーニ盤にするだろう。このCDはさほど人気がないが、民族性が出過ぎない丁寧なスラヴ舞曲の中では、私のお気に入りである。
すべての曲が魅力的なので、どこがどうという記述はしたくないし、そうしたところで同じような文章になってしまう。特に言えば、作品46が派手な曲が多いのに比べ、作品72の方が音楽的にはより抒情的である。
【収録曲】
1.スラヴ舞曲集作品46
①第1番ハ長調
②第2番ホ短調
③第3番変イ長調
④第4番ヘ長調
⑤第5番イ長調
⑥第6番ニ長調
⑦第7番ハ短調
⑧第8番ト短調
2.スラヴ舞曲集作品72
⑨第1(9)番ロ長調
⑩第2(10)番ホ短調
⑪第3(11)番ヘ長調
⑫第4(12)番変ニ長調
⑬第5(13)番変ロ短調
⑭第6(14)番変ロ長調
⑮第7(15)番ハ長調
⑯第8(16)番変イ長調
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