初めて東北地方を旅行したのは、高校一年生の時だった。いわきから郡山を経て会津若松の通り新津へ抜けた。福島県を浜通り、中通、会津へと2日がかりで横断した。それ以降、少し遠ざかっていた東北地方への旅行も、気が付いてみると各県1回は泊りがけで訪れている。
宮城県(仙台、気仙沼)、岩手県(北上、釜石、遠野、森岡)、青森県(津軽)、秋田県(角館、男鹿)、そして山形県の県央部(米沢、蔵王、天童)もすでに旅行を終えており、最後に残ったのが青森県の南部地方(八戸、下北)と岩手県の三陸地方北部(宮古)、そして山形県の庄内地方(酒田、鶴岡)のみとなっている。今日はとうとう出羽山地を越えて日本海側に向かう。一昨日の福島旅行から帰ったばかりだと言うのに、早朝に東京を立ち、ひとり山形新幹線「つばさ」新庄行きに乗っている。
薄暗かった車窓も大宮を過ぎると明るくなった。けれども冬の空である。雲が切れ目なく覆っているが、それも次第に薄くなって、青空がところどころから覗くようになった。天気予報によれば、いつになく暖冬だった今年も、とうとう冬将軍の到来となったようだ。この冬はじめての本格的な西高東低の気圧配置。太平洋側は乾いて快晴となるが、日本海側は大荒れだそうである。よりによってそんな日に酒田へ向かうなんて、なんと素敵なことだろう。年の瀬の酒田は、雪の日にこそ相応しいではないか?
いつものように持ってきたWalkmanで聞くのは、やはりチャイコフスキーを始めとするロシア音楽である。今日はコリン・デイヴィスがコヴェントガーデンのオーケストラと録音した珠玉の一枚、チャイコフスキーのバレエ音楽集である。当然のことのように「エフゲニー・オネーギン」の第3幕への前奏曲から始まる。この曲以外、知らない曲ばかりである。
利根川を渡る。一昨日と違い、今日は遠くに日光連山が朝の光を浴びて輝いている。右手には筑波山も。広い空の下を時速300キロ近い速度で一路北上している。
いつもながらこんな風景に、チャイコフスキーの音楽はピタリと決まっている。コリン・デイヴィスの熱のこもった指揮が、耳元で豪華に鳴り響いている。シンフォニックでロシア情緒も満点、独特の陰影を帯びた表情で演奏されるバレエ音楽の数々は、広い大地に暮らす農村のお祭りの光景だろうか。宇都宮に着いて「はやぶさ」の通過待ちをしている間に、雲の切れ目から朝日が顔を覗かせた。
The MET Live in HDシリーズで「エフゲニー・オネーギン」を見て以来、チャイコフスキーの音楽にほれ込んでしまった私は、ある日このCDを見つけ衝動的に買い求めた。そして聞き進むうちに、華やかで民族的な旋律のバレエ音楽の数々が、交響曲とはまた異なる世界へと私を連れ出してくれた。今ではどの曲の表情も、私は馴染んでいる。
今年の年末にはCDプレイヤーを買い替えようと思う。CDで音楽を聞く
時代は終わりつつあるけれど、収集した1000枚を超えるCDを捨て去るわけには行かない。鳴りっぷりの良くなった新しいオーディオ装置で、このチャイコフスキーのバレエ音楽集などを鳴らしながら、ゆったりと過ごしたい。そんなことを思っていると、私を乗せた「つばさ123号」はゆっくりと宇都宮駅を発車した。
【収録曲】
歌劇「エフゲニー・オネーギン」より
・ポロネーズ
・ワルツ
・エコセーズ
歌劇「オルレアンの少女(ジャンヌ=ダルク)」より
・前奏曲
・ジプシーの踊り
・道化師たちと曲芸師たちの踊り
歌劇「オプリチニーク(親衛隊)」より
・舞曲
歌劇「チャロデイカ(魔女)」より
・序奏
・曲芸師たちの踊りと情景
歌劇「チェレヴィチキ(小さな靴)」より
・序奏
・ロシアの踊り
・コサックの踊り
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