2018年12月2日日曜日

レスピーギ:リュートのための古風な舞曲とアリア(リチャード・ヒコックス指揮シンフォニア21)

1879年ボローニャ生まれのレスピーギと言えば、「ローマの噴水」「ローマの松」「ローマの祭り」の3つの交響詩(いわゆる「ローマ三部作」)でとりわけ有名だが、古楽への興味から数多くのバロック的作品を残していることでも知られている。その中でも「リュートのための古風な舞曲とアリア」は有名で、録音でも取りあげられることが多い作品である。

レスピーギはローマのサンタ・チェチーリア音楽院で教鞭をとっていた際、ルネサンスからバロックにかけての古い楽譜と出会い、その中でもリュートのために書かれたいくつかの曲を現代の作品として編曲した。編曲といってもあまり現代風のアレンジが加えられているようには思えず、むしろ作曲当時の作品の持つ気品や古風な味わいをそのまま残し、リュートで書かれた部分はうまく合奏の中に溶け込ませている(従ってこの作品にはリュートやギターは使われていない)。

そんな、素朴で香り高い作品は、目立たないながらも珠玉の如ききらめきを放っている。この作品は、愛さずにはいられない作品である。どの曲のどの部分も捨てがたいが、まるで古代ローマの遺跡に佇むような、時間が止まったかのような印象を与える第1組曲の「ヴィラネッラ」、一方、第2組曲の「田園舞曲」や第1組曲の「酔った歩みと仮面舞踏会」は、管楽器のソロが活躍する楽しい舞曲である。また「ベルガマスカ」(第2組曲)や「ガリアルダ」のリズムは、バロックの香りを讃えた現代風のポップな曲でもあり(まるでディズニーの作品のような)、愛らしく素敵だと思う。

「パリの鐘」や「シチリアーナ」はしっとりとした味わいを残す曲で、とりわけ「シチリアーナ」は我が国では有名である。私はNHK-FMの夜のクラシック番組のテーマ曲として使われていたことをよく覚えている。シチリアにはまだ行ったことはないが、シチリアーノとかシシリアーノといった表記の曲に出会うたびに、郷愁を掻き立てられる。極東の国で聞くこの曲は、忙しい都会の喧騒を離れて昭和の時代の地方にタイムスリップしたかのような印象を与える。気持ちが落ち着き、安らぎを覚える。

実に素晴らしい作品だが、私が所有しているCDはわずかに一枚。イギリス人の指揮者リチャード・ヒコックスがシンフォニア21という団体のオーケストラを指揮したChandosレーベルのもの。楽器を鮮明に捉えつつも節度が聞いた音作り。第1組曲ではチェンバロの音もはっきりと聞こえて、大変好ましい演奏だと思う。もっとも比較のしようがないのだが、今ではNaxosを始めとする定額制の音楽サイトから、いくらでも聞くことが出来るので、そのうち聞いてみようかと思っている。

なおこのCDには、フルートと弦楽合奏のための組曲第2番より「アリア」と弦楽合奏曲のためのベルキューズという、2つの世界初録音と謳われる曲が収録されている。いずれもゆくりとした味わい深い作品である。これらの作品から受けるレスピーギの印象は、あの「ローマ三部作」で見せるような色彩感溢れるものとは対照的である。この作曲家の多才さを感じる。ヒコックスはこのほかにも数多くの録音を残しており、目立たないながらもいい演奏をする指揮者だと思っていたが、2008年に急逝していたことを知った。享年60歳だった。


【収録曲】
1. 第1組曲
    小舞踏曲(Balletto)(シモーネ・モリナーロ作曲)
    ガリアルダ(Gagliarda)(ヴィンチェンツォ・ガリレイ作曲)
    ヴィラネッラ(Villanella)(作曲者不詳)
    酔った歩みと仮面舞踏会(Passo mezzo e Mascherada)(作曲者不詳)
2. フルートと弦楽合奏のための組曲第2番より「アリア」
3. 第3組曲
    イタリアーナ(Italiana)(作曲者不詳)
    宮廷のアリア(Arie di corte)(ジャン・バティスト・ベサール作曲)
    シチリアーナ(Siciliana)(作曲者不詳)
    パッサカリア(Passacaglia)(ロドヴィコ・ロンカッリ作曲)
4.弦楽合奏曲のためのベルキューズ
5. 第2組曲
    優雅なラウラ(Laura soave)(ファブリツィオ・カローゾ作曲)
    田園舞曲(Danza rustica)(ジャン・バティスト・ベサール作曲)
    パリの鐘(Campanae parisienses)(マラン・メルセヌ作曲)
    ベルガマスカ(Bergamasca)(ベルナルド・ジャノンチェッリ作曲)

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