2013年7月29日月曜日

モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第5番イ長調K219(Vn:ジョシュア・ベル、ペーター・マーグ指揮イギリス室内管弦楽団)

16世紀から17世紀にかけて、ウィーンは何度もトルコ軍に包囲され、その脅威にさらされた。だがそれもモーツァルトの時代にはすでに終止符が打たれていて、その後にトルコ風の文化の影響が残った。ウィーン中にいまでも多く残るカフェもそのひとつだが、音楽の側面においてもこの時期の、すなわちウィーン古典派の作曲家たちの間にトルコ風メロディーが流行る。モーツァルトやベートーヴェン、それにシューベルトまでもが「トルコ行進曲」を書いているし、モーツァルトのオペラ「後宮からの逃走」などは、その軽快なマーチ風リズムをふんだんに織り込んでいる。

ザルツブルクに住んでいたモーツァルトも、そのヴァイオリン協奏曲第5番の終楽章で、トルコ風のリズムを取り入れたのは流行のせいだろう。太鼓やシンバルこそ使われないが、オーケストラのコル・レーニョ奏法のリズムに乗って、独奏ヴァイオリンが印象的なメロディーをかき鳴らす。この曲が「トルコ風」といわれる所以で、初めて聞いた時にもそれとわかる部分であった。

昔の演奏は、第1楽章の冒頭から元気よくしかもおおらかに、この若々しいモーツァルトの音楽を表現しているように思えた。だがそのような演奏家が去り、世代交代が進んで、80年代は名ヴァイオリニストが少ない時代だったように思う。ところが90年代に入り、若い世代が瑞々しい感性で、それまでにはなかった雰囲気の演奏を繰り広げ、その多くが技巧的には、かつての演奏家を凌駕するかの勢いでもあった。

そのような中にあって、1991年に登場した若干24歳のアメリカ人ヴァイオリニストは、当時でも80歳になろうかとしていた名匠ペーター・マーグの安定感のある伴奏によって、のびのびと2つのヴァイオリン協奏曲を録音した。この演奏は、もし昔のSP時代の演奏家のレコードから、ヒス・ノイズを取り除いてデジタル化したら、こういう録音になったのではないだろうかと私を思わせた。雰囲気が何ともレトロなのである。

明るく天真爛漫という風ではないし、かといって技巧を強調するわけでもない。むしろ大人しくモーツァルトの音楽をそのままストレートに弾いている。伴奏が遅いので、たっぷりと時間をかけているということもある。だから第2楽章などはいつまでも鳴っている感じである。取り立てて特徴的ではないところが、何とも素敵な一枚である。思えば80年代では、そのようなひたすら真面目で綺麗な演奏が多かった。演奏のスタイルとして、今では物足りない感じがするとしても、この時の若い感性が、ほぼ同世代の私にとってしっくりと来ている。そしてジョシュア・ベルは、今でもとても魅力的な演奏を続けている名ヴァイオリニストであり続けている。

なお、このCDでは第3番、第5番ともに彼自身によるカデンツァが用いられている。

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