今年は例年になく早く梅雨が開け、暑い夏が到来した。このような暑い時期に、何か聞きたくなるような曲はないかと考えたら、どういうわけかモーツァルトの「ポストホルン」セレナーデが思い浮かんだ。若いころは良く聞いていた曲で、懐かしい。最初に聞いたのはカール・ベーム指揮による演奏だった。ここでオーケストラはベルリン・フィルだったと思う。かっちりとした、風格のある演奏だった。
モーツァルトが23歳の頃に作曲したこの曲は、彼のザルツブルク時代の最後の頃の作品である。セレナーデにはいくつかの有名曲があるが、この曲はその中でも最も大きな規模の作品で、全部で7楽章もある。それぞれの楽章が大変美しく、どの部分をとっても捨てがたいので、交響曲に編集して演奏するというのは勿体無い話だと思う。
私はとりわけ第1楽章を好むが、心が洗われるような第2楽章のメヌエット、一度聞いたら忘れられない第3楽章のコンチェルタンテ、それに第4楽章ロンドもいい。第5楽章になって静かな部分になるが、このアクセントのおかげで続く2つの楽章が印象的である。
その第6楽章に郵便局のホルンが使われている。ヨーロッパを旅行すると、郵便局のマークはこのポストホルンの記号である。ベートーヴェンも交響曲第8番第3楽章のトリオで、ポストホルンにヒントを得た素晴らしい曲を作っている。モーツァルトのこのポストホルンは、わずかな部分である。この曲のニックネームだけを聞いてこの曲を聴き始めると、なかなかここに到達しない。だがそれまでの曲も素晴らしいので、まあポストホルンは付け足しといった感じではある。第7楽章では再び堂々としたフィナーレとなって終わる。
私はこの曲のCDを何枚か持っているが、ここでは最初に買ったネヴィル・マリナー指揮アカデミー・オブ・セント・マーチン・イン・ザ・フィールズによる録音で聞いた。この演奏を初めて聞いた時、このような完璧な演奏は他にあるのだろうか、とさえ思った。それくらい録音と演奏が素晴らしい。だがそのように聞き惚れていた演奏も、今では少し大人しく、真面目すぎるなどと感じるのは、演奏スタイルの流行のせいであろう。
私は夏のスイスが大好きで、学生時代には2ヶ月を彼の地で過ごした。ポストホルンの響きに夏のスイスが印象づけられているのはそのためであるかも知れない。とにかく、このような素敵な曲を、完璧な演奏で聞いていると、何か少し涼しい気分がしてくるのは不思議なものである。
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