妻が何か見たい、と言いだしたかどうかは覚えていない。だが私はヴェルディの「椿姫」の公演のチラシを見て、久しぶりにこれなら行ってもいいか、などと考えた。埼玉県民だった私は上野での公演が好都合であった。当時の記録を読み返してみた。以下はその時の文章。
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第1幕:一見おとぎ話となってしまうのではとさえ思われた出だしで、この後がどうなるのかが心配で心配で仕方がなかったほど緊張したのだが(実際、これほどはらはらしながらオペラを見たことはない)、「ああそはかの人か~花より花へ」を見事に歌いきり、最後の3点音を、カラス風に1オクターブ上げて歌いきったところでブラボーが吹き荒れたことにより、このオペラへの期待が一気に確かなものになったのだった。それほどみんな安心した。そして「やってくれるじゃない、だから次からも期待していますよ」、と言わんばかりの観客席である。だからオペラはやめられないねえ、という感じで幕間のバルコニーでの会話も紅潮した面々が多い。
第2幕:アルフレードとの楽しい日々。しかし父ジェルモンとの面会によりヴィオレッタの心が変化してゆく。2人だけの浪費生活に区切りをつけて泣く泣くパリに帰るヴィオレッタ。ここでのデヴィーアは、丁々発止のレチタティーヴォを益々好調な声で歌いきる。その見事なこと。まるで2人の男声(は決して悪い出来ではなかった)は、すべてデヴィーアを盛り立てるために存在しているかのようであえあった。東京フィルもオペラに慣れているだけあって不満はない。そして指揮が緊張感を損なうことなく全体を纏め上げている。スペインの踊りにいたってはバレエの魅力も満載で、胸に詰まるものがある。最高の見せ場でいよいよ最高潮に達し、客席からもブラボーが絶えることはない。
第3幕:いよいよ絶好調のデヴィーアの演技に、ハンカチで涙を拭う事なしに見ることはできなくなった。演出も回想シーンを獲り入れた独特の雰囲気で悪くない。2階席最前列で見た「椿姫」は、このオペラの総合的な魅力に改めて感銘を受けるとともに、デヴィーアという名ソプラノが今後、この役で益々頭角を現してくることを如実に予感させた。
兎に角、この公演は良かった。日本でのオペラも捨てたものではないな、と思った。デヴィーアは何度も舞台に呼び戻され、その間、歓声と拍手が絶えることはなかった。「久しぶりにいいものを見た」そう思いながら、初春の心地よい風の吹く上野公園を後にした。
ヴィオレッタ・・・マリエッラ・デヴィーア
アルフレード・・・アクタビオ・アレーバロ
ジェルモン・・・ダヴィデ・ダミアーニ、ほか
藤原歌劇団合唱部、東京フィルハーモニー交響楽団(指揮:アラン・ギンガル)
演出:ベッペ・デ・トマージ
(2000年3月18日 東京文化会館)
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