2016年1月30日土曜日

J. シュトラウス:ワルツ集(ヤコフ・クライツベルク指揮ウィーン交響楽団)

元日に放送されるウィーン・フィルのニューイヤーコンサートを見ることが、毎年ほぼ1回だけのウィンナ・ワルツ体験となっている。それ以外の時期にあまりワルツやポルカを聞きたくなることはないのだが、お正月からしばらくはワルツ気分であることも確かである。そういうわけで1月中に何かのCDをラックから取り出して聞きたいと思っていた。

ウィンナ・ワルツを聞くためには、何もウィーン・フィルの演奏でなければならないということもない。それで私はあえて、ウィーン・フィル以外の団体によって演奏されるウィンナ・ワルツばかりを取り上げたいと思っていた。ライナーのシカゴ響、バルビローリのハレ管、アーノンクールのコンセルトヘボウ管、それにカンゼルのシンシナティ・ポップスなどなど。そのような中で私が一番気に入っている一枚は、ヤコフ・クライツベルクが指揮するウィーン交響楽団によるものである。この演奏が上記と異なる点は、この演奏もまたれっきとした本家の演奏ということである。

ヤコフ・クライツベルクというロシア生まれの指揮者は、まだ若かったにも関わらず2011年3月に死亡した。丁度東日本大震災の頃である。私はまだ少ない録音の中からいくつかの演奏を聞いたことがあり、その音楽のきちっとした表現が結構気に入っていたこともあって、とても残念に思った。SACDの専門レーベルPentatoneからリリースされている。ウィーン交響楽団の日本公演でも取り上げられたにもかかわらず、ほとんど評判にならなかったディスクである。

このディスクの特徴ははっきりしている。まず、すべてヨハン・シュトラウスⅡ世によるワルツのみを扱っていること。ポルカもなければ行進曲もない。次に演奏が非常に真面目で立派なこと。それから録音が非常に優秀なこと。ほぼ有名曲ばかり入れられている。珍しいのは「北海の絵」という作品だけである。この中には私が好きなベスト3のうちの2つ、すなわち「ウィーンの森の物語」と「芸術家の生活」が含まれている(あとひとつは「天体の音楽」であるが、これは弟ヨゼフの作品)。

首都圏にも雪を降らせると天気予報が伝えている。そのような低く垂れこめた曇天の下を出勤する月曜日の朝に、私はこの演奏を聞くことが多い。ウィンナ・ワルツは私の場合、冬の曇った朝に似合う。ゆっくり静かに「皇帝円舞曲」が始まるというのがいい。一方、気持ちが晴れ晴れとする「南国のバラ」で終わるというのもよく考えられていると思う。「ウィーンの森の物語」は長い序奏のすべてが美しく、特にツィターの響きが聞こえてくると白ワインを飲んで少し酔っぱらったような気分になる。

ウィンナ・ワルツはどのような演奏で聞いても楽しいが、これだけちゃんとした演奏で聞くというのも何とも言えない嬉しさがある。ウィーン・フィルの演奏だったら、もっとリラックスした雰囲気がいいいなどと言われるかも知れない。ウィーン以外の演奏家だったら、面白みに欠けると言われるかも知れない。ウィーン交響楽団の演奏だからそのどちらでもないのだ。ヤコフベルクの真摯な指揮ぶりが、そういう微妙なポジションをうまく引き立てることに成功したのだろう。

なお、ワルツ「芸術家の生活」はこれまで「芸術家の生涯」として親しんできた曲である。「生涯」などというと大袈裟なので「生活」とするのが自然ではないかと思っていたが、その通りのようで今では「芸術家の生活」というタイトルになっているようだ。


【収録曲】
1.皇帝円舞曲
2.ウィーンの森の物語
3.芸術家の生活
4.北海の絵
5.美しく青きドナウ
6.南国のバラ

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